近年、顧客からの理不尽な要求や暴言など、いわゆるカスタマーハラスメント(カスハラ)による精神的被害が深刻化しています。
カスハラに直面した従業員が、過度なストレスによって、うつ病や適応障がいなどの精神疾患を発症し、労災申請へと至る事例も少なくありません。
本記事では、カスハラが原因で精神疾患が発症した場合に労災認定される条件や、実際の認定事例、企業が負うべき法的責任について詳しく解説します。後半では、従業員を守るために企業が取り組むべき具体的な対策も紹介しますので、最後までご覧ください。
場当たり的な対応や部分的な対策だけでは、効果が限定的となり、従業員を十分に守ることはできません。そこでカイクラでは、カスハラに対して網羅的な対策を立案・実行するための知識をまとめた資料をご用意しています。
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▲従業員と企業を守るための具体的な対策を解説
深刻化するカスハラ問題、企業の現状とは?
カスハラは、今や多くの企業にとって避けられない深刻な問題です。カスハラによる理不尽な要求や暴言などが、従業員の心身に悪影響を与えるケースが増加しています。
厚生労働省が発表した調査によると、過去3年間に「カスハラ(顧客等からの著しい迷惑行為)」を受けたと回答した人の割合は、全体の10.8%にのぼります。
さらに同調査では、さまざまなハラスメントの中でもカスハラは「過去3年間に相談件数が増えている」と答えた人の割合が最も高い、という結果でした。
社会がカスハラ増加の認識を深めるなか、従業員の安全や健康を守る仕組みづくりが強く求められています。
では、カスハラ被害を実際に受けた従業員にはどのような影響があるのでしょうか、詳しくみていきましょう。
カスハラを受けた従業員への影響
カスハラの矛先となるのは、日々顧客対応を担う現場の従業員です。理不尽な要求や人格を否定する言動は、働く人の尊厳を深く傷つけ、一度でも経験すれば深刻な精神的・身体的ダメージを引き起こす恐れがあります。
厚生労働省の調査でも、カスハラを経験した人の半数以上が、「怒り、不安、不満」などの感情を1回以上抱いたと報告されています。
カスハラを受けた従業員に具体的に見られる影響は、以下の3つです。
- 仕事のパフォーマンス低下
- 仕事のモチベーションの喪失(仕事を辞めたい、出勤が憂鬱など)
- 健康不良(ストレスによる不眠、耳鳴り、腹痛などの身体的不調)
症状によっては、通院や服薬が必要になる例も少なくありません。つまり、カスハラは単なる「迷惑行為」ではなく、従業員の精神疾患や労災リスクにつながる重大な問題といえます。
従業員が精神的に不調をきたせば、個人の問題にとどまらず、休職・離職やチーム全体の生産性低下につながり、結果として企業経営を脅かす重大なリスクとなります。カスハラが企業経営に与えるリスクについては、以下の記事でも詳しく解説していますのでご一読ください。

ここまでみてきたように、カスハラは従業員の健康を脅かす深刻な問題です。では、カスハラが原因で従業員が精神疾患に至った場合、労災として認められる可能性はあるのでしょうか。
次の章からは、カスハラにまつわる労災認定を紹介します。
カスハラが原因の精神疾患は労災認定される?
労災とは、「労働災害」の略で、労働者が仕事や通勤が原因で負傷や病気になったり、亡くなったりすることです。
厚生労働省は、2023年9月にカスハラの労災認定基準を改正し、カスハラが原因で精神疾患を発症した場合も労災として認められる可能性が高まりました。
ここでは、カスハラによる精神疾患が労災認定される条件や、認定基準、申請の流れなどを詳しく紹介します。
- カスハラで労災が認められる3つの要件
- 心理的負荷の強度について
- 労災申請の流れ
- 労災認定が下りなかった場合
企業としてカスハラ対策に備えるためにも、知識を整理しておくことは重要です。順にみていきましょう。
カスハラで労災が認められる3つの要件
精神疾患の労災認定要件は、次の3つです。
- 発病前にカスハラによる強い心理的負荷を受けたか
- 認定対象の精神疾患を発病している(医師から診断されているか)
- 業務との因果関係が認められるか
まずは、「業務による強い心理的負荷があったこと」を証明します。
通常の業務範囲を超えた心理的ストレスが認められることが条件で、発病の約6か月以内に以下があった場合が該当します。
- 顧客からの暴力や暴言
- 過度な要求
- 長時間の拘束 など
次に重要な点は、カスハラを受けた結果、うつ病や適応障がい、不安障がいなどの精神疾患が「医学的に診断されているか」です。これは医師の診断書によって証明できます。
最後に、「その精神疾患が業務に起因していると認められること」もポイントです。つまり、プライベートな問題ではなく、顧客対応など業務上のできごとが原因であると証明する必要があります。
たとえば、顧客対応の直後に体調不良を訴えたり、不眠や不安などの精神的症状が現れたりする場合は、業務が原因であることを裏付ける材料となり得ます。録音・録画データや業務日報なども、因果関係を示す客観的な証拠として重要です。
心理的負荷の強度について
精神疾患の労災への該当性は、厚生労働省による心理的負荷による精神障害の認定基準に基づき判断されます。
厚生労働省の評価基準では、心理的負荷の強さは「強・中・弱」に分類され、それぞれに該当する具体例が示されています。
以下の表に、各強度の概要と具体例をまとめました。
強度 | 説明 | 具体例 |
---|---|---|
強 | 客観的に対象疾病(精神障がい)を発病させるおそれのある強い心理的負荷であると認められるもの |
|
中 | 発病の可能性があるが、状況や対応次第で変わる中程度の心理的負荷 |
|
弱 | 通常業務の範囲内と考えられる、比較的軽度の心理的負荷 |
|
心理的負荷の強さが「強」に該当する場合は、1回のできごとでも労災認定される可能性が高いです。「中」であっても、複数回にわたる場合や会社が適切な対応をしていなかった場合などは、認定対象になることがあります。
一方、「弱」の場合は、原則として労災と認定されるのが難しいとされています。
なお、心理的負荷の判断は「本人がどう感じたか」ではなく、同じ事態に遭遇した際に「同様の労働者がどう感じるか」という客観的な基準で評価されることが一般的です。
労災申請の流れ
カスハラ被害により精神疾患を発症したときは、以下の流れで労災申請を進めます。
▼労災を申請する際の5ステップ
- 会社に報告する
- 医療機関を受診し、診断書をもらう
- 労災申請書類を作成する
- 労働基準監督署に提出する
- 正式に労災認定される
カスハラ被害の証拠として、普段から通話記録・メール・メモ・録音データなどを保管しておくと、客観的な事実の裏付けとなり認定の助けになります。
労災申請には時間がかかることも多いため、早めの行動が重要です。できるだけ速やかに会社に報告し、被害の事実や状況証拠を集めるようにしましょう。
労災認定が下りなかった場合
万が一、労災認定が認められなかった場合でも、すぐに諦める必要はありません。
労災認定には不服申し立てができる制度があり、「審査請求」と「再審査請求」の2つの手段が用意されています。
「審査請求」とは、労働者災害補償保険審査官に対し再度認定の見直しを求めるもので、不認定の通知を受けてから3か月以内に申し立てます。
審査請求の結果にも納得できない場合は、「再審査請求」が可能です。こちらは通知から2か月以内に労働保険審査会に申し立てます。
上記の手続きは、専門知識が求められる場面も多いため、労働問題に詳しい弁護士や社会保険労務士へ相談することを推奨します。
カスハラは労災になる!実際に労災認定されたカスハラ事例
ここでは、実際に労災として認められたカスハラ被害の例を紹介します。
ある住宅メーカーで営業職に就いていた20代の男性社員は、注文住宅の工事を担当していた顧客から継続的なカスハラを受けていました。
カスハラの主な行為は以下の通りです。
▼主なカスハラ行為
- 電話で長時間にわたり叱責される
- 「バカ」などの暴言を繰り返し浴びせられる
- 委託業者が汚した隣家の外壁を清掃するよう強要される
- 休日に電話に出られなかったことを責められる
このような過酷な対応を繰り返し強いられたことで、男性は精神的に追い詰められ、社員寮から転落死してしまいます。
労災申請にあたり、遺族が提出した男性の携帯電話の通話録音データが証拠となり、労働基準監督署は「顧客からの執拗な迷惑行為による精神疾患が原因」として労災と認定しました。
この事例は、企業が従業員を守る体制を構築していなかったことが、取り返しのつかない結果を招いた一例です。
事例の詳細は「カスタマーハラスメント対策マニュアル」にまとめていますので、あわせてご一読ください。
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▲従業員と企業を守るための具体的な対策を解説
ここまで解説したとおり、カスハラは単なる職場のトラブルではすまされません。カスハラが労災として認定される時代において、企業が果たすべき役割はこれまで以上に重要です。
次の章からは、企業が負うべき責任を改めて確認しておきましょう。
カスハラ対応で企業が負うべき責任とは
企業は、従業員が安心・安全に働けるように環境を整備する「安全配慮義務」という法的義務を負っています。
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
加えて、カスハラが労災認定の対象となったことで、企業には従業員の精神的負担を軽減するための実効性ある対策が求められています。
カスハラに対する対応を怠ったり放置したりした場合、企業は以下の責任を問われる可能性があります。
- 従業員からの損害賠償請求
- 労働基準監督署からの行政指導・勧告
- 社会的信用の失墜によるブランドイメージ悪化 など
労災保険では補償しきれない損害もあり、企業にとっての責任は決して軽くありません。すべてのケースで賠償義務が生じるわけではないとはいえ、カスハラを未然に防ぐ体制を整えることが何より重要です。
ここからは、企業が責任を果たし従業員を守るために実践できる5つの取り組みを紹介します。
カスハラから従業員を守るためにできる対策5つ
カスハラによる精神疾患が労災として認定されるケースが増えるなか、企業が責任を果たすには、従業員を守るための具体的な対策が欠かせません。
企業が実践できる5つの取り組みは以下です。
- 誰でも相談しやすい窓口づくり
- カスハラ対応マニュアルの作成
- 社員研修の実施
- 精神疾患が発症した従業員のケアと復職支援
- カスハラ防止に向けた職場環境づくり
いずれも従業員が安心して働ける環境を整えるうえで重要な施策です。ひとつずつみていきましょう。
1.誰でも相談しやすい窓口づくり
カスハラを受けた従業員が安心して相談できる窓口の整備は、まずやっておきたい優先事項です。相談窓口の設置は、事実の早期把握はもちろん、のちの労災申請時にも役立ちます。
役割として重要なのは以下の2点です。
- 相談内容を客観的・正確に記録すること
- 必要に応じて弁護士や社労士と連携できる体制を整えること
社員からの報告の心理的ハードルを下げたい場合は、匿名での相談受付や外部機関を案内することも有効です。
相談窓口の開設後は、相談できる窓口があることや利用方法を定期的に全従業員へ周知しましょう。
相談を電話で受け付ける場合、内容を正確に記録するために、自動録音つき電話システムの導入をおすすめします。電話でのやり取りを確実に記録できるので、相談内容の把握や証拠の保存に役立ちます。
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2.カスハラ対応マニュアルの作成
次に必要なのは、マニュアルの整備です。現場レベルでの対応を統一するため、カスハラに対する企業としての方針やフローをまとめます。
マニュアルには次の3つのポイントが欠かせません。
▼マニュアルに載せる内容
- カスハラの定義と分類の明確化
- 基本方針・相談体制・対応フローの整備
- 教育・研修や社内共有のあり方
まず、どのような言動がカスハラに該当するのかを具体的に示すことで、現場の判断基準が定まります。
さらに、「誰が」「どのタイミングで」「どこに報告し」「どうエスカレーションするか」という流れを明文化しておくと、実際の対応もスムーズになります。
多忙な従業員でも即座に理解できるよう、以下の工夫も効果的です。
- 動画やフローチャートなどを活用する
- 実際の状況を想定しやすいよう事例を多く掲載する など
詳しいマニュアル作成手順は以下の記事でも解説しています。

3.社員研修の実施
マニュアルがあっても、現場で活用されなければ意味がありません。そこで、ロールプレイや具体例を取り入れた実践的な研修を定期的におこない、従業員へ浸透させます。
研修では次の内容を盛り込みます。
▼研修の内容
- 具体的な事例を共有し、自分ごととして捉えてもらう
- 自社・従業員・顧客に与える影響を具体的に説明し、対策の必要性を理解させる
- クレームとの違いや基本方針も伝え、現場で迷わず対応できる状態を作る
さらに、カスハラに関するニュースを紹介したり現場のリアルな声を共有したりすると、より効果的です。
カスハラの研修に関しては、以下の記事もあわせてご一読ください。

4.精神疾患が発症した従業員のケアと復職支援
あらゆる対策を講じていても、カスハラによって従業員が精神的ダメージを受ける可能性はあります。従業員が精神疾患を発症した場合は、速やかに適切なケアと復職支援をおこなうことが企業の信頼につながります。
まずは、従業員が安心して休養できる環境を整えることが先決です。産業医と連携し、必要に応じて専門機関につなげましょう。
復職時は、本人の希望を尊重しつつ、時短勤務や業務の調整を段階的におこなうことが大切です。
カスハラの被害は、当事者だけではなく被害を目撃した他の従業員にも心理的影響が及ぶことがあるため、職場全体のメンタルケアもあわせて検討します。
5.カスハラ防止に向けた職場環境づくり
相談や対応だけではなく、そもそもカスハラが起きにくい職場環境をつくることも重要です。
たとえば、カスハラ防止には以下のような対策があります。
- 警備会社や警察との連携体制の構築
- 防犯カメラや警報設備の導入
- 通話内容の録音体制の整備 など
とくに通話対応が多い業種では、録音データが証拠として活用できることから、通話録音システムの導入が有効です。
とはいえ、実際にどう整備すればいいのかわからず、手が止まってしまう担当者の方も多いのではないでしょうか。
次の章では、自動に録音が記録できるコミュニケーションプラットフォーム「カイクラ」の活用について詳しく紹介します。
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通話対応が多い業種のカスハラ対策では、「言った・言わない」とトラブルを防ぐためにも、証拠として録音データを残すことが重要です。
とはいえ、手動で録音すると手間がかかったり録音することを忘れたりしてしまう恐れがあります。
そこで、自動録音機能がある「カイクラ」の導入がおすすめです。
- すべての通話を自動で録音するから、録音忘れを防げる
- 電話内容をAIがテキスト化するから、録音を聞かなくても会話内容が把握できる
- 受電時、顧客名や過去の問い合わせ内容が画面に表示されスムーズに対応できる
- 対応ごとにメモを登録でき、社内の情報共有に役立つ
通話の自動録音機能では、通話の開始とともに録音することをアナウンスするため、通話前にカスハラを抑止する効果があります。
カイクラは、自動通話録音とともに顧客情報の一元管理が可能です。過去にカスハラの加害者となった顧客からの受電が着信時にわかるため、ベテランや上司が電話に出るなど臨機応変な対応ができます。
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まとめ:カスハラ対策をして従業員の健康と企業の信頼を守ろう
カスハラは、現場の従業員に深刻な精神的ダメージを与え、ときには労災に発展するケースもある重大な問題です。企業には、安全配慮義務の観点からも、従業員を守るための具体的な対策を講じる責任があります。
カスハラの対応は現場任せにせずに、相談窓口の設置やマニュアルの整備などの体制を整え、組織全体で対応しましょう。
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カイクラには、自動録音としての機能だけではなく、日頃の電話業務を可視化・効率化できる機能が搭載されているため、現場の対応力向上や業務の効率化にもつながります。通話録音の文字起こしやAI要約ができるため、カスハラ被害の際にもマネジメント層が現場の状況を把握しやすくなる点も、カスハラ対策にも有効です。
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