顧客対応において頭を悩ませるのが、理不尽な要求や暴言である「カスハラ(カスタマーハラスメント)」への対応です。カスハラを放置すると、従業員の心身を追い込み、企業の信頼性を損なう原因となるため、早急な対策が欠かせません。
そこで注目されているカスハラ対策が、顧客対応の録音です。顧客との通話録音は、客観的な証拠を残すだけではなく、不当な要求を抑止し、研修やマニュアル改善にも活用できる有効な手段といえます。
本記事では、カスハラ対策に有効な録音に焦点を当て、法律上の注意点や導入による効果を解説します。ビジネスに録音を取り入れる際の疑問や不安を解消できる内容になっていますので、最後までご覧ください。

カスタマーサクセス領域における業務改善のプロフェッショナル。株式会社シンカのマネージャーとして、3000社以上の「カイクラ」導入企業を支援するチームを統括。担当業務の多様化・複雑化に伴う「タスクの抜け漏れ」や「業務の属人化」といった、多くの企業が抱える課題に対し、ITツールを活用した業務プロセスの抜本的な再構築を主導。現場の課題解決から事業成長までを幅広く支援する、電話コミュニケーションDXのプロ。
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カスハラを無断で録音すると違法なのか
録音を検討する際「顧客との通話を無断で録音すると違法になるのでは?」と不安に思う方も多いのではないでしょうか。
結論から言えば、会話の当事者が相手の同意を得ずに録音しても、法律上は問題ありません。
一方で注意すべきは、録音の前後の行為です。
録音するために盗聴器を設置したり、他人の住居に侵入したりすれば当然ながら違法となります。録音した内容を外部に漏らしたり、本来の目的以外に利用したりすることも、プライバシー侵害や損害賠償のリスクにつながります。
つまり重要なのは、録音そのものではなく録音データの取り扱いです。録音内容は個人情報にあたる可能性があるため、保存や利用方法には細心の注意を払い、データを適切に管理しましょう。
録音データの適切な管理方法は、後述する「録音データはどう管理・保存すべき?」を参考にしてください。
さらに、ビジネスで通話録音するときの注意点を詳しく知りたい方は、以下の記事をあわせてご一読ください。

録音の違法性に関する解説は以上です。
「録音が違法ではないとわかったけれど、顧客には録音していることを伝えなくていいの?」と気になる方もいるのではないでしょうか。次章では、事前告知について解説します。
録音は事前に相手に伝えるべき?カスハラにおけるケース2つ
録音を導入する際、まず検討したいのが「相手に事前に知らせるべきか」です。
法律上、必ずしも告知しなければならないわけではありませんが、利用目的によっては伝えた方が望ましい場合もあります。
ここでは、次の2つのケースに分けて紹介します。
- カスハラ防止が目的の場合
- カスハラの証拠として扱う場合
では、それぞれみていきましょう。
1.カスハラ防止が目的の場合
電話でのカスハラ発生を防止したいときは「この通話は録音させていただきます」のように、あらかじめ録音していることをアナウンスするのが効果的です。
顧客が会話が記録として残ると意識することで、攻撃的な発言を控える傾向があるからです。実際にコールセンターでは「告知を始めてからカスハラが減った」という企業の声もあります。
2.カスハラの証拠として扱う場合
繰り返される悪質なカスハラや脅迫的な発言を記録として残すには、告知しない方がよい場合もあります。相手が録音を警戒して発言を控えることなく、実態を正確に残せるというメリットがあるからです。
録音を証拠保全に利用する場合、法律で事前告知は義務づけられていません。会話の当事者がおこなう録音であれば、原則として合法とみなされます。
では、事前告知をしていない録音データを裁判で証拠として提出した場合、証拠能力は認められるのでしょうか。民事と刑事に分けて整理します。
民事訴訟の場合
- 証拠能力を制限する規定がないため、無断録音であっても原則として証拠として認められる
- 実際にカスハラやクレーマーに関連する民事事件で、無断録音データの証拠能力を認めた裁判例が存在する
- 被害にあった従業員が、自身の保護やトラブル解決を目的として録音する行為は、正当な理由による秘密録音とみなされる
刑事裁判の場合
- 「違法収集証拠排除法則」があるため、録音の過程で違法な手続きがあった場合には証拠能力は認められない(例:盗聴器を設置するために他人の住居へ侵入したなど)
- ただし、自己防衛のために正当に録音したものであれば、刑事事件でも証拠として採用される可能性がある
上記のように、民事訴訟においては無断録音であっても証拠として認められ、刑事裁判においても一定の条件で無断録音が証拠として認められます。
とはいえ、ビジネス上の観点からは、顧客との信頼関係を守るために、状況によっては録音の有無や目的を伝えておいた方が安心です。事前に伝えるかどうかは相手との関係性を考慮して判断しましょう。
通話録音の違法性については、以下の記事でも解説していますので、あわせてご一読ください。

通話録音は、法律上も証拠として活用できることがわかりましたが、注目されている理由はそれだけではありません。
通話録音は、企業を守ることや顧客対応の改善にも効果があります。次に、カスハラ対策の現場で録音が重視される理由を整理していきましょう。
カスハラ対策で録音が注目される理由
顧客とのやり取りを録音することは、カスハラ対策において欠かせない取り組みとして注目されています。その理由は、大きく分けて企業を守る防御と顧客対応改善の両面で効果があるからです。
それぞれの効果を、具体的にみていきましょう。
防御
- 会話を客観的に残し「言った・言わない」のトラブルを避けられる
- 必要に応じて法的証拠として活用できる
- 録音を告知することで、不当要求や攻撃的な態度を抑止できる
改善
- 録音データを振り返り、オペレーターの対応をフィードバックできる
- 優れた対応事例を共有し、教育や教材に活用できる
さらに、録音の導入は企業にとどまらず、住民対応にあたる自治体でも重要な対策として取り入れられています。
▼通話録音を導入する自治体の例
- 熊本県:2025年5月30日から本庁舎で録音設備の運用を開始。今後は各地域振興局にも順次導入予定
- 愛知県名古屋市:2025年度中に全ての駅と営業所に録音機能付きの電話機を設置予定
- 千葉県船橋市:電話機に通話録音装置を設置予定
このように、社会全体に「カスハラは許されない行為である」認識が広まり、その対策のひとつとして通話録音は欠かせない手段となりつつあります。
通話録音をビジネスで活用する場合は、セキュリティの観点からも通話録音システムを導入するのがおすすめです。
次章からは、システムを選ぶ際に確認すべきポイントを紹介します。
証拠保全だけじゃない!カスハラ対策に使う通話録音システムの選び方4つ
通話録音システムは、証拠を残すためだけでなく、従業員の安心感や業務改善にも役立ちます。ここでは、通話録音システムを選ぶ際に確認しておきたい4つのポイントを紹介します。
- 通話の開始と同時に自動で録音されるか
- 通話の内容をテキスト化できるか
- セキュリティ対策がされているか
- 顧客情報と紐づけられるか
では、ひとつずつみていきましょう。
1.通話の開始と同時に自動で録音されるか
まず通話録音システムに欠かせないのが、自動録音機能です。
オペレーターが手動で操作するシステムでは、緊迫したクレーム対応中に録音し忘れが起きる可能性があるため、確実性に欠けます。
自動録音機能を備えたシステムであれば、通話開始と同時に録音が始まり、漏れなく記録を残せます。
さらに、多くのシステムでは通話終了後にすぐ音声データ化され、保存期間内であればいつでも再生可能です。過去の通話内容を簡単に振り返れるため、トラブル対応だけではなく、オペレーターへのフィードバックなど教育にも役立ちます。
2.通話の内容をテキスト化できるか
次のポイントは、通話内容の文字起こし機能があるかです。
録音データを一つひとつ聞き返すのは時間も手間もかかり、確認したい箇所を探すのも容易ではありません。文字起こし機能があれば、会話の流れをテキストで把握でき、内容確認がスムーズです。
カスハラが発生した際には、証拠整理や情報共有を効率的に進められるメリットもあります。
3.セキュリティ対策がされているか
無料アプリなどによる通話録音は、セキュリティ対策に懸念があるものも多くあります。
ビジネス利用の場合、顧客の機密情報を扱うため、セキュリティ体制の整ったシステムを選ぶことが欠かせません。通話録音データの管理が不十分の場合、情報漏えいにつながり、企業の信用を大きく損なう恐れがあります。
通話録音システムを導入する際は、十分なセキュリティ機能を備えているか確認しましょう。導入に際して確認したいのは、以下の点です。
▼確認したい通話録音システムのセキュリティ機能
- 不正アクセスの防止(二要素認証、IPアドレス制限など)
- データの暗号化(通信時および保存時)
- 利用者ごとのアクセス権限の設定(役割に応じた制限) など
安全に管理できるシステムを選べば、情報漏えいのリスクを抑え、安心して録音データを活用できます。
4.顧客情報と紐づけられるか
最後のポイントは、顧客情報と通話録音データの一元管理ができるかという点です。
カスハラの対応方針を決めるには、今起きている問題が一時的なトラブルなのか、常習的な行為なのかを把握することが欠かせません。
顧客情報と通話内容をあわせて管理できれば、以下をすぐに確認でき、状況に応じた適切な対応方針を立てられます。
- 過去にどのようなクレームがあったのか
- 繰り返しトラブルを起こす顧客かどうか
顧客履歴を共有すれば、現場全体で一貫した対応ができます。
上記の条件を満たすサービスの一例として紹介したいのが「カイクラ」です。カイクラは、通話内容を自動で録音・管理できるうえ、AIによる文字起こしや要約機能も備えており、業務の可視化や効率化にも役立ちます。
さらに、安心して利用できるよう、IPアドレス制限、通信暗号化、毎日の自動バックアップなど万全のセキュリティ体制を整えています。データは実績ある大手データセンターで管理されているため、ウィルス対策も万全で安心です。
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ここまで、録音の必要性や通話録音システム導入のポイントを説明してきましたが、実際に運用するとなるとさらに細かな悩みが出て来る場合があります。そこで、次章では現場でよくある質問をまとめました。
カスハラ対応・録音に関する質問まとめ
ここでは、カスハラ対策における録音に関連した代表的な質問をQ&A形式で紹介します。
- 相手に録音を拒否されたらどう対応する?
- 録音データはどう管理・保存すべき?
- 相手に録音・撮影された場合はどうする?
- 録音だけでカスハラ対策は十分?
では、みていきましょう。
1.相手に録音を拒否されたらどう対応する?
前提として、会話の当事者が自分で録音する行為は法律上問題ありません。そのため、相手が拒否をして同意しなくても録音は続けられます。
実際の対応では、以下のように、冷静かつ毅然と「企業としての方針」であることを伝えて、理解を得られるように努めることが望ましいです。「社外に公開しない」と補足すれば、相手も納得しやすくなります。
▼相手に録音を拒否された場合の対応例
「発言内容を正確に理解するため、記録を残させていただきます」
「対応品質を向上させる目的で録音しています。社外に公開することはありません」
企業としての方針を伝えたうえでも強く拒否される場合は、上司や管理部門にエスカレーションしましょう。「録音ができない以上、対応に責任を持てない」と伝えるのもひとつの方法です。
なお、相手から「プライバシー権の侵害だ」と指摘されることもあります。プライバシー権とは、日本国憲法第十三条の解釈に基づき、私生活をみだりに知られたり干渉されない権利のことです。
ただし、企業が顧客対応を目的として録音することは、トラブル防止や対応品質の改善という正当な理由が認められるため、原則として侵害にはあたりません。
したがって、必要性を説明したうえで、毅然とした態度で録音を続けることが重要です。
2.録音データはどう管理・保存すべき?
録音データに氏名や連絡先が含まれる場合は、個人情報保護法の対象です。そのため管理や保存に関しては、個人情報保護法に基づき保存期間や利用目的を明確にし、アクセス権限を限定するなどの対応が求められます。
具体的な管理方法としては、以下の取り組みが有効です。
▼データを適切に管理するための方法例
- 必要以上に長期保管しない
- データ管理の責任者を設ける
- スタッフに情報管理の研修を実施する
- 離席時にはPCにロックをかける
- 定期的に削除やバックアップをおこなう
録音も個人情報であることを念頭に置き、組織として適切な管理体制を整えることが重要です。
3.相手に録音・撮影された場合はどうする?
自分で録音する行為は、法律上は原則として認められているため、相手が会話や映像を勝手に記録しようとする行為を拒否はできません。
ただし、従業員の姿を無断で撮影されることは肖像権やプライバシー権の侵害にあたります。
以下のように、法的根拠を示して明確に中止を求めましょう。
▼相手に録音・撮影された場合の対応例
「個人の肖像権の観点から撮影を中止してください」
「従業員のプライバシー保護のため、撮影はご遠慮ください」
さらに、映像をSNSや動画サイトに投稿された場合は、証拠を保全したうえで速やかに法務部や弁護士と連携して対応します。
具体的には、まず投稿者や運営者に削除を依頼し、応じない場合は発信者情報開示請求で投稿者を特定して、削除請求や損害賠償請求をおこなうケースもあります。
4.録音だけでカスハラ対策は十分?
通話録音だけでは十分とはいえません。
録音データはカスハラを「見える化」し、トラブルを未然に防ぐ役割を持ちますが、あくまで事後的な証拠保全の手段に過ぎないからです。
企業としてカスハラから従業員を守るためには、組織全体で以下のような対策をする必要があります。
▼カスハラ対策でおこなうべき取り組み
- マニュアルの策定
- 被害や相談を匿名で受け付けられる窓口の設置
- 相談・報告内容を共有・エスカレーションできる体制づくり
- 被害者の心身ケア(産業医やカウンセラーへの相談)
従業員が安心して働ける環境を整えることは、企業の信頼にもつながります。まずは、制度の見直しやツールの導入から、一歩ずつ取り組みを進めましょう。
とはいえ「何から始めればいいのかわからない」方もいるのではないでしょうか。
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まとめ:録音はカスハラ対策の第一歩
録音は、日本の法律上、会話の当事者であれば相手に断らずにおこなっても原則として問題ありません。録音を告知することでカスハラの抑止につながり、無断録音であっても証拠能力が認められる場合があります。
ただし、データの管理や保存方法を誤るとプライバシー侵害などのリスクが生じるため、適切な運用が欠かせません。
このように通話録音は、カスハラ対策の第一歩として有効な手段です。とはいえ、通話録音だけでは十分とはいえません。マニュアルや相談窓口を含め、組織全体で仕組みを整えて従業員を守れる実効性のあるカスハラ対策を講じましょう。
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