顧客からの理不尽な要求や悪質なクレーム、いわゆるカスハラ(カスタマーハラスメント)は、果たして犯罪になるのでしょうか。カスハラには、暴行や脅迫などの明らかな犯罪行為から、執拗な嫌がらせなど判断に迷うものまでさまざまなケースがあります。
どこからが許されないハラスメント行為なのか、線引きに悩む方も多いのではないでしょうか。
本記事では、どのようなカスハラ行為が犯罪に該当するのかを、暴行罪や脅迫罪、名誉毀損罪などの具体的な罪名とともに解説します。また、実際に警察に通報すべきか、あるいは弁護士に相談して法的措置を検討すべきかという判断のポイントも、過去の判例を交えて詳しく説明します。
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カスハラとは?正当なクレームとの違いを解説
「これってカスハラ?それともクレーム?」と、判断に苦労した経験はありませんか。従業員を理不尽な要求から守るためには、まず「カスハラ」の定義を正しく理解し、正当なクレームとの違いを知ることが大切です。
ここでは、厚生労働省の定義を基に、カスハラとは何か、そして正当なフィードバックであるクレームとの境界線はどこにあるのかをわかりやすく解説します。
厚生労働省が定義するカスハラは下記の通りです。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・能様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・能様により、労働者の就業環境が害されるもの
つまり、たとえ商品やサービスに不備があったとしても、大声で怒鳴りつけたり、長時間居座ったり、従業員個人を攻撃したりするような行為はカス腹に該当する可能性があります。正当な要求の範囲を逸脱し、従業員の働く環境を害するかどうかが、カスハラの判断基準です。
一方で、正当なクレームは、企業が成長するための貴重なフィードバックです。商品やサービスに対する顧客からの不満や改善要求は、自社の課題を浮き彫りにし、サービス品質の向上へとつなげる大切なきっかけとなります。
カスハラとクレームの違いを具体例を交えて詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。

カスハラはどのような犯罪になる?該当する可能性のある具体的な種類
悪質なカスハラは、従業員個人の尊厳を傷つけるだけではなく、刑法上の「犯罪」として処罰の対象となる可能性があります。感情的なクレームと犯罪行為との一線はどこにあるのでしょうか。
ここでは、カスハラに該当する可能性のある以下の7つの具体的な犯罪の種類を、詳しく解説します。
- 暴行罪・傷害罪
- 脅迫罪・強要罪
- 侮辱罪
- 威力業務妨害罪
- 恐喝罪
- 名誉棄損罪
- 軽犯罪法違反
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.暴行罪・傷害罪
顧客が従業員に対して、直接的な暴力をふるうケースです。これは最もわかりやすく、悪質な犯罪行為といえます。具体的には、以下の場合などです。
- 胸ぐらを掴む
- 腕を引っ張る
- 商品を投げつける
- 殴る、蹴る、平手打ちをする
このような行為は、たとえ従業員に怪我がなくても暴行罪(刑法208条)が成立する可能性があります。さらに、暴力によって従業員が怪我を負った場合には、より重い傷害罪(刑法204条)に問われます。
2.脅迫罪・強要罪
暴力はなくとも、相手に恐怖心を抱かせる言動は犯罪にあたる可能性があります。
具体的には、脅しや脅迫、強要などです。
- 「お前の家族の情報をSNSで晒してやる」
- 「夜道に気をつけろよ」
- 「火をつけてやる」
- 「誠意を見せろ、土下座しろ」
相手やその親族の生命・身体・財産などに害を加えることを伝えて脅す行為は、脅迫罪(刑法222条)に該当します。さらに、脅迫や暴行を用いて義務のないこと(謝罪広告の掲載や土下座など)を無理やり行わせた場合は、強要罪(刑法223条)が成立する可能性があります。
3.侮辱罪
他の顧客や従業員がいる前など、公然の場で相手の人格を否定し、社会的評価を下げるような言動も犯罪です。
具体的には、「この店員は本当に頭が悪い」「こんな無能なやつは初めてだ」と大声で罵るなどの行為です。
このように、具体的な事実を示さずに相手を侮辱する行為は、侮辱罪(刑法231条)に問われる可能性があります。
4.威力業務妨害罪
威力を用いて従業員の業務を妨害し、店舗の正常な運営を困難にさせる行為です。具体例は以下のとおりです。
- 大声で怒鳴り続け、他の顧客への対応を不可能にさせる
- 「責任者を出せ」と長時間にわたって居座り、退去しない
- 何度も無言電話をかける、執拗にクレームの電話をかけ続ける
こうした、人の自由な意思を制圧するような勢いで業務を妨害した場合、威力業務妨害罪(刑法234条)が適用されることがあります。
5.恐喝罪
相手を脅し、金品などの財物を不当に要求する行為は恐喝にあたります。具体的な行為の例は以下です。
- 「誠意を見せろ。慰謝料として〇〇万円払わないと、ネットに悪評をばらまくぞ」
- 「この商品をタダにしないと、保健所に通報してやる」
このように、相手を怖がらせて金銭や物品を交付させる行為は、恐喝罪(刑法249条)に問われる可能性があります。
6.名誉棄損罪
不特定多数の人が知ることのできる状況で、具体的な事実を挙げて個人の社会的評価を低下させる行為です。
具体的には、SNSや口コミサイトに「〇〇店の店員△△は、客の商品を盗んでいる」などと嘘の情報を書き込む場合などです。
侮辱罪と異なり、具体的な事実(真実かどうかは問わない)を提示して相手の名誉を傷つける点が特徴で、名誉毀損罪(刑法230条1項)に該当します。
7.軽犯罪法違反
上記の罪に該当しないような比較的軽微な迷惑行為であっても、軽犯罪法に違反する可能性があります。
- 入店を断られているにもかかわらず、執拗に来店しようとする
- とくに用事もないのに店内をうろつき、他の客に不安感を与える
こうした行為は、軽犯罪法違反(軽犯罪法1条)に問われる可能性があります。
カスハラに関する法律や最新の動向は、以下の記事でも詳しく紹介しています。

実際にカスハラが犯罪と認められたケース
カスハラは、現実の社会で実際に「犯罪」として扱われ、加害者が逮捕されたり、損害賠償を命じられたりするケースも報告されています。
ここでは、実際にカスハラ行為が犯罪と認定された具体的なケースを2つ紹介します。
- カスハラ行為で逮捕されたケース
- カスハラで損害賠償請求が認められた判例
それぞれ詳しく解説します。
1.カスハラ行為で逮捕されたケース
クレームの範疇を明らかに逸脱した悪質な行為によって、加害者が逮捕に至る事件は後を絶ちません。
土下座を強要しSNSで拡散、名誉毀損で逮捕
商品のクレームをつけた顧客が、腹いせに衣料品店の従業員に土下座をさせ、その姿をスマートフォンで撮影しました。さらに、その画像をSNSで拡散したことにより、名誉毀損の容疑で逮捕されました。
たとえ商品に不満があったとしても、相手の人格や尊厳を著しく傷つける行為は犯罪です。
自宅で店員に坊主になるよう強要し逮捕
購入したバリカンが使えないとクレームをつけた顧客が、対応のために自宅を訪れた家電量販店の店員に対し、「誠意を見せろ」などと言って、そのバリカンで坊主になるよう迫ったとして、強要の容疑で逮捕されました。
金銭的な要求だけではなく、相手に義務のないことを無理やり行わせる行為も、決して許されません。
2.カスハラで損害賠償請求が認められた判例
刑事事件として逮捕されるケース以外にも、民事訴訟によって加害者の責任が問われ、高額な損害賠償が命じられる判例も出ています。
市職員への執拗な嫌がらせに80万円の賠償命令
大阪市のある市民が、市の職員に対して暴言を繰り返したり、1日に9回も電話をかけたり、大量の情報公開請求を行ったりするなどの迷惑行為を続けました。これにより市の業務に多大な支障が出たとして、市が損害賠償を求めて提訴します。
裁判所は、これらの行為が「社会通念上相当な範囲を逸脱している」と判断し、加害者に対して80万円の損害賠償を命じました。
配送業者への土下座強要に有罪判決
荷物が指定日時に届かなかったことに腹を立てた顧客が、配送業者の営業所を訪れ、従業員に対して長時間にわたり大声で怒鳴りつけました。さらに、土下座を強要してその様子を動画で撮影するなどの行為に及びました。
裁判所はこれを単なるクレームの域を超えた悪質な行為と断じ、加害者に対して懲役10か月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡しています。
さまざまな業種でカスハラが訴訟に発展した事例は他にもあります。より多くのケースを知りたい方は、以下の記事もぜひ参考にしてください。投稿が見つかりません。
参考:
・『しまむら』店員に土下座を強要した女性が略式起訴となった事件について
・「反省坊主じゃ」とカスハラか、呼び出した店員の右側頭部をバリカン刈りに – 産経ニュース
・カスタマーハラスメント(カスハラ)の対応方法について、弁護士が事例を踏まえて解説
犯罪行為のカスハラを警察や弁護士に相談する方法
悪質なカスハラ被害に実際に遭ってしまった場合、社内だけで対応しようとせず、外部の専門機関に相談することが大切です。しかし、「どこに」「何を」相談すればよいのかわからない方もいるのではないでしょうか。
ここでは、具体的な相談先として以下の3つを紹介します。
- カスハラ被害を警察に相談する方法と流れ
- カスハラ被害の訴訟を検討する際のポイント
- カスハラに関する相談窓口
それぞれの役割や相談する際のポイントを解説します。
1.カスハラ被害を警察に相談する方法と流れ
暴力や脅迫、身の危険を感じるような緊急性の高いカスハラに直面した場合は、ためらわずに警察へ相談してください。
警察は「民事不介入」の原則があるため、あらゆるトラブルに対応するわけではありませんが、暴行罪や脅迫罪などの犯罪行為に対しては、加害者の検挙を含めた刑事事件としての対応が期待できます。
警察に相談する際は、以下のポイントを押さえておくとスムーズです。
- 緊急時は迷わず110番通報
- 証拠の確保が何よりも重要
- 具体的な状況を伝える準備
緊急性はないものの、犯罪にあたる可能性のある行為を相談したい場合は、警察相談専用電話「#9110」にかけることで、最寄りの警察署の相談窓口につながります。
2.カスハラ被害の訴訟を検討する際のポイント
- カスハラによって生じた営業上の損害を賠償してほしい
- 従業員が受けた精神的苦痛に対して慰謝料を請求したい
このようなケースでは、弁護士に相談して民事訴訟を検討するのが有効です。
民事訴訟とは、個人や企業間の法的なトラブルの解決を裁判所に求める手続きです。法律の専門家である弁護士に依頼することで、以下のメリットがあります。
- 法的な見通しを立ててくれる
- 代理人として交渉や手続きを任せられる
- 損害賠償請求が可能になる
民事訴訟においても、警察への相談と同様に客観的な証拠は欠かせません。弁護士に相談する際も、事前に防犯カメラの映像や録音データなどを準備しておきましょう。
カスハラで訴訟を起こす具体的な手順や注意点は、以下の記事で詳しく解説しています。

3.カスハラに関する相談窓口
「警察や弁護士への相談はハードルが高い」「まずはどこに話せばいいかわからない」場合は、公的な相談窓口も利用可能です。
これらの窓口では、専門の相談員が話を聞いたうえで、状況に応じたアドバイスや適切な機関の紹介をしてくれます。
たとえば、東京都では「東京都カスタマーハラスメント総合相談窓口」が設置されており、専門の相談員に話を聞いてもらえます。
そのほかにも、厚生労働省が設置する「総合労働相談コーナー」では、全国の労働局や労働基準監督署で相談が可能です。

犯罪行為のカスハラから身を守る!具体的な対策4つ
悪質なカスハラから大切な従業員と会社を守るためには、事件が起きてから場当たり的に対応するのではなく、事前に組織として対策を講じ、備えておくことが大切です。
ここでは、企業が今すぐ取り組むべき具体的なカスハラ対策を、4つのポイントに絞って解説します。
- カスハラ対応マニュアルの整備
- 通話録音・防犯カメラなど証拠保全体制の強化
- 従業員向けのカスハラ研修の実施
- 外部機関との連携による早期対応体制の構築
とくに犯罪として立証するためには、通話録音や防犯カメラなどの証拠保全は欠かせません。詳しくみていきましょう。
1.カスハラ対応マニュアルの整備
まず全ての対策の土台となるのが、カスハラ対応マニュアルの作成と、全従業員への周知徹底です。
対応方針や手順が明確でないと、担当者が一人で恐怖やストレスを抱え込み、対応が後手に回ってしまう恐れがあります。誰が、いつ、どのように対応するのかのルールを組織全体で共有しておくことで、一貫性のある対応が可能になります。
マニュアルには、以下の項目を盛り込みましょう。
- 企業の基本方針
- カスハラの定義と判断基準
- 具体的な対応フロー
- 担当者、責任者、緊急連絡先
厚生労働省のガイドラインを基にしたマニュアル作成のポイントは、こちらの記事で詳しく解説しています。

2.通話録音・防犯カメラなど証拠保全体制の強化
警察への通報や、のちの法的措置を検討するうえで、何よりも重要になるのが客観的な証拠です。「言った言わない」の水掛け論を避け、カスハラの事実を第三者に正確に証明するためには、映像や音声などの証拠が決定的な役割を果たします。
店舗であれば防犯カメラの設置、電話対応が中心であれば通話録音システムの導入がおすすめです。
とくに電話でのカスハラには、自動で通話が録音されるシステムの導入が効果的です。コミュニケーションプラットフォーム「カイクラ」は、かかってきた電話をすべて自動で録音します。「録音ボタンを押し忘れた」という人為的なミスを防ぎ、重要なやり取りを確実に証拠として残すことができます。
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3.従業員向けのカスハラ研修の実施
マニュアルで「ルール」を整備するだけではなく、従業員一人ひとりが冷静に対応できる「スキル」を身につけるための研修も欠かせません。
突然の暴言や理不尽な要求に直面すると、誰でも冷静さを失いがちです。事前に対応方法を学び、シミュレーションしておくことで、いざというときにパニックに陥ることなく、自身の安全を確保しながらマニュアルに沿った適切な対応がとれるようになります。
研修では、過去に自社や他社で起きた事例を共有するほか、カスハラ客役と対応者役にわかれたロールプレイングを取り入れると、より実践的なスキルが身につきます。相手の感情に巻き込まれず、冷静に対応する訓練を積んでおくことが、従業員を守ることにつながります。
なぜカスハラ研修が必要なのか、その具体的な進め方は、以下の記事も参考にしてください。

4.外部機関との連携による早期対応体制の構築
対策の最後の砦として、社内だけでは対応が困難な悪質なケースに備え、弁護士などの外部専門機関と迅速に連携できる体制を構築しておきましょう。
法的判断が必要な場面や、相手の要求がエスカレートして手に負えなくなった場合、専門家のサポートがあるかないかで、その後の展開は大きく変わります。
顧問弁護士は、法的措置に踏み切るべきかなどの経営判断の相談や、代理人として相手方との交渉を依頼できます。また、元警察官OBなどを企業の相談役とすることも可能です。
社内で抱え込まず、早期に専門家へ相談できる体制を整えておくことが、問題の長期化や深刻化を防ぐ鍵となります。
まとめ:犯罪行為のカスハラから従業員を守ろう
本記事では、カスハラがどのような犯罪に該当するのか、実際の事例や企業がとるべき対策を解説しました。
結論として、従業員が心身ともに安心して働ける環境を整えることは、企業の成長に欠かせません。そして、カスハラは、単なる「悪質なクレーム」ではなく、従業員を深刻な被害者にする「犯罪行為」になりうることを、組織全体で正しく認識しなくてはなりません。
暴力や脅迫、名誉毀損行為から従業員を守るために、マニュアルの整備や研修、証拠保全体制の構築などの具体的な対策を講じることが、すべての企業に求められています。
カイクラでは、カスハラ対策のポイントをわかりやすくまとめたお役立ち資料を用意しています。無料でダウンロードできますので、ぜひ従業員を守るための体制構築にお役立てください。
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