顧客と接点のある業務をテレワークで対応することはできるでしょうか?顧客対応のテレワーク化は進んでいるとはいえ、情報漏洩や接客クオリティの維持など超えるべき課題があることは確かです。
2020年、東京オリンピック時の東京都内の混雑緩和や働き方改革に合わせてテレワークが推進され、徐々にテレワークを採用する企業が出てきていましたが、世界を襲った新型コロナウイルス禍が状況をさらに加速させました。
非常事態宣言、外出自粛、自宅勤務推奨といった感染拡大対策から、顧客対応をテレワークでも対応できるようにする企業が増えていくことは間違いありません。
本稿では顧客対応をテレワークで行う方法と成功している会社について紹介します。
テレワークと在宅ワーク
テレワークはICT(Information and Communication Technology )を用いて、本社(事業所)と離れた場所で行う業務全般を指します。
一般的にテレワークとして認知されている自宅作業は、厳密にはテレワークの一種の在宅ワークのことを指しており、だからこそ出社せずに業務遂行が出来るので感染予防になるといえます。
しかし国土交通省の定義によれば、事務所以外の場所で仕事を行う労働者は「狭義のテレワーカー」でしかありません。
定義上、厳密には外出先でノートPCなどを使って仕事をするモバイルワークや所属事務所以外の場所で働くサテライトオフィス勤務もテレワークに含まれるので注意が必要です。
詳しくは下記の記事をご覧ください。
置き換え可能な仕事
テレワーク可能な仕事は数多いです。業種ではなく業務によって置き換えの可否が決まるからです。
業務内容や環境によっては、いわゆるITエンジニアや事務処理だけでなく営業職や管理職、技術職もテレワークを導入できます。
自宅から会社のサーバーにリモートアクセスして事務仕事を処理したり、自宅のPCで顧客からのメール連絡を受けてやり取りしたり電話を自動で転送するシステムを採用するなど、情報処理技術の発展によりオフィスにいなくて様々な顧客接点を維持できるようになりました。
テレワークでもできる?
特に顧客対応業務をテレワーク化しやすいのはBtoB(Business to Business)の分野です。
営業パーソンが自宅からクライアントとWeb会議で打ち合わせをしたり、メールでやり取りするのは管理上大きな問題となりません。
下記のように一社だけで既に1500社を超える電話対応システムが導入されています。
電話対応システムは単なる自動音声サービスや転送機能だけではありません。
顧客データベースと連携してSMS発信したり、通話内容をテキスト化したり、レポート分析するなど、非常に多機能です。
電話で顧客対応をするのに必要な機能が全て揃っており、テレワークと業務支援の両方を兼ね揃えているのです。
テレワークが向かない仕事
テレワークには多くのメリットがありますが、全ての仕事がモバイルワークや在宅ワークで完結できるわけではありません。業種に制限はありませんが、業務によっては向かないものがあります。
テレワークの向かない仕事の特徴は実際に生産したり対面サービスを提供するビジネス全般で、その代表的なものは下記の通りです。
運送業
運送業はテレワークに置き換える事は出来ません、トラックドライバーや集荷場の運営スタッフは通信販売の拡大によって常に人手不足となっています。
将来的には自動運転と自動倉庫の組み合わせにより、完全な自動化が実現するかもしれませんが、現時点においては望み薄です。
製造業
専門知識のある人間が材料と製造機器のある工場(プラント)に集まり、協力して働く必要があります。かなり以前から遠隔操作による自動工場の構想はありますが、現在においては全く実現していません。
飲食業
レストランやカフェ、居酒屋など、お店の運営はテレワーク出来ません。料理を作ったりお酒を提供する仕事はマニュアル化出来ても、最終的には従業員がオペレーションをこなします。
宿泊業
ホテルや民宿など宿泊業も場所を管理・提供する関係上、テレワークでは運営できません。
例え自動販売機でチケットを買って入場するようなカプセルホテルであっても、シーツの取り換えや掃除など、様々な設備維持活動が必要です。
小売業
飲食店や宿泊業と同様に、食料品や雑貨、家電など売り物を問わずあらゆる小売業もテレワーク不可能です。
お店に立たなければ業務がこなせません。チェーン店など各店舗を管理するスタッフ部門であれば業務のテレワーク化は可能ですが、お店自体は必ず人手が必要です。
その他
他にも対面打ち合わせが必要な一部営業職やタクシー運転手など様々な仕事がテレワークに置き換え不能です。
以上の点からテレワークは従来の働き方よりも「優れた」働き方というわけではありません。働き方の幅を広げてくれる事は確かですが、向き不向きや限界があるのです。
コールセンターはテレワーク可能か?
顧客対応業務の代表例でありながら、テレワーク化しづらいとされていたのがコールセンター業務です。
コールセンターでは多くのオペレーターがクレームや商品情報の確認など多岐に及ぶ顧客からの電話に対応しています。
通常、コールセンターは人手不足状態におかれており、全てのコールを受ける事が出来ません。
そのためIVR(音声自動応答装置:Interactive Voice Response)などを駆使して、顧客をの問い合わせ内容をし分けたり、待ち時間が長時間になる場合は掛けなおしてもらったり、こちらから掛けなおしたりしています。
そしてコールセンター全体としては、コールの応答率や放棄呼率、レスポンスタイム、単位時間当たりの平均処理コール数などを総合的に管理することで接客品質を維持します。
このような業務をテレワーク化すると、オペレーターの裁量が大きくなるので接客品質を管理できなくなると危惧する会社は多いです。
2019年度の一般社団法人コールセンター協会の実態調査によれば、在宅テレコミュニケーター(オペレーター)の採用予定がある会社の数は限られています。
2019年度コールセンター企業 実態調査報告|一般社団法人コールセンター協会
しかし新型コロナウイルス禍によって状況は変わりました。
コールセンターは感染原因である「密閉」「密集」「密接」の三密を満たしています。
既に複数の企業でコールセンター内の感染が危惧されており、センターを営業停止にするなど業務に支障をきたす状態となっています。
新型コロナウイルス感染者の発生について|トランコスモス株式会社
(お知らせ)当社コールセンターにおける新型コロナウィルス感染者の発生について<3月31日追記><2020年3月12日>|NTTdocomo
このような現状を鑑みて、これまでと同じ形でコールセンターを運営し続けるのは業務停止リスクが大きいと言わざるを得ません。
万が一のために完全に業務停止しないよう、リスクヘッジとして在宅コールセンターの需要が増えると思われます。
コールセンターも在宅勤務 チューリッヒが宣言受け拡大|朝日新聞デジタル
そして新型コロナウイルス対策以外にもコールセンター業務をテレワーク化することで、通勤時間の短縮によるワークライフバランスの向上や新規採用者の間口を広げるといったメリットが見込めます。
実際、総務省によるテレワーク優良導入モデル(導入支援事例集)にもテストケースとして在宅コールセンターの例が記載されており、接客品質を落とさないよう管理できる在宅コールセンターは可能だといえるでしょう。
顧客対応事例
最後に厚生労働省の事例集より、在宅コールセンター以外のテレワークによる顧客対応事例を下記に紹介します。
トロシステムズ株式会社の例
同社では従業員の業務場所はICT機器を活用することで自宅、外出先、その他自由となっており、個人携帯で会社のダイヤルインナンバーを着信可能にしています。
営業パーソンのモバイルワークとして必要な環境や社内ルールが確立されており、オフィスにいなくても顧客からの電話やメールなどの連絡を受けて対応することが出来ます。
株式会社SiM24
2005年の創業時から完全在宅勤務制度を導入しており、業務で使用するICT機器はセキュリティツールをインストールした状態で会社が支給しています。
またリアルタイムで画面を共有するシステムを導入しており、顧客との打ち合わせも全てシステム上で可能となっています。
顧客も従業員も移動に時間やコストをかけず会議ができるようになり、その場で依頼内容の受け取りと納品ができるため、迅速なサービス提供が可能となりました。
まとめ
このように業務内容と環境さえ整っていれば出社しなくても顧客対応業務をこなす事は可能です。
しかしこのような環境を実現するには、様々な準備が必要です。
業務用PCを支給したり、回線費用を負担したり、Web会議ツールを用意したりと様々な費用がかかります。
しかし全ての金額を自社で負担する必要はありません。
本稿を記載しているタイミング(2020年4月)は東京都の事業継続緊急対策(テレワーク)助成金と厚生労働省の働き方改革推進支援助成金の申請に間に合うからです。
テレワークに必要な機材の導入など、必要な費用を最大で150~250万円まで助成してもらえるので、期間限定のチャンスだと言えます。
詳しい申請資格などについての詳細は下記の公式ページをご覧ください。
事業継続緊急対策助成金の場合は都内に本社や事業所を構える中小・中堅企業に限られますが、働き方改革推進支援助成金には地域による縛りはありません。
(第70報)事業継続緊急対策(テレワーク)助成金募集を開始します!|東京都防災ホームぺージ
どちらも申請期限が切られているので出来るだけ早い時期に申請した方がよいのですが、書類の作成など様々な事務処理が煩雑です。不備など見つかって差し戻されたりしたら、助成金がもらえなくなるかもしれません。
そこでテレワークツールのベンダーと助成金を前提とした設備導入の相談をすることをおすすめします。
単なる助成金獲得代行ではなく、自社のビジネスモデルにあったシステムの提案を受けられるので、安心してテレワークの導入が出来るでしょう。