カスハラに関する法改正が進むなか、企業には従業員を守るための相談窓口設置が実質的に義務化されようとしています。
しかし、担当者の方のなかには「何から手をつければいいかわからない」「設置しても形骸化してしまうのではないか」などのお悩みをお持ちではないでしょうか。対策が遅れると、従業員の離職や企業イメージの低下などのリスクにもつながりかねません。
本記事では、カスハラ相談窓口の設置義務や法的な背景から、具体的な設置・運用方法、中小企業でも実現可能な対策まで解説します。従業員に周知しておきたい外部の相談窓口も紹介しますので、従業員が安心して働ける環境を整備し、企業リスクを管理するために、ぜひご覧ください。
カスハラ対策は、相談窓口の設置とあわせて、防止に向けた世の中の動きや具体的な取り組みを知ることが重要です。
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▲従業員と企業を守るための具体的な対策を解説
カスハラ相談窓口とは?なぜ設置が必要なのか
近年、ニュースなどで耳にする機会が増えたのが「カスハラ(カスタマーハラスメント)」です。顧客からの理不尽な要求や迷惑行為は、従業員の心身を疲弊させ、離職につながる深刻な問題です。企業として、従業員を守るためにどのような対策が必要なのでしょうか。
その答えの鍵となるのが「カスハラ相談窓口」の設置です。
ここでは、以下の3つに分けて、相談窓口の設置が企業にとって必要なのか解説します。
- カスハラの定義と被害の現状
- カスハラ相談窓口が必要な理由
- カスハラ相談窓口の主な役割と機能
それぞれ詳しくみていきましょう。
カスハラの定義と被害の現状
はじめに、カスハラが通常の「クレーム」とどう違うのかを正しく理解しておくことが重要です。
カスハラとは、顧客などから従業員への悪質性の高い迷惑行為や嫌がらせのことを指し、正当な意見や要望であるクレームとは明確な違いがあります。
両者の違いを見分けるポイントは、主に以下の2つです。
- 内容が正当かどうか
- 要求が過剰かどうか
内容が正当であっても、大声での恫喝や脅迫、長時間の拘束、土下座の要求など、社会通念に照らして明らかに過剰な行為はカスハラと判断されます。このようなカスハラは、対応にあたる従業員に大きな身体的・精神的負担を与え、休職や離職につながるケースも少なくなくありません。
カスハラの定義や具体例は、より詳しくは以下の記事でも解説しています。

カスハラ相談窓口が必要な理由
では、なぜ今、多くの企業でカスハラ相談窓口の設置が急務となっているのでしょうか。
その理由は、社会的な要請と法的な義務化の流れが加速しているからです。もはや、現場任せの個人対応で済ませられる問題ではありません。
具体的には、以下の3つの背景が挙げられます。
- 社会問題化しており件数が増加している
- 対応の属人化や現場任せでは従業員の負担が大きくなる
- 相談体制の整備が義務になる可能性が高い
今後の法改正によって、パワーハラスメントと同様に、企業は従業員からのカスハラ相談に応じるための体制整備が求められると予想されます。
カスハラに関連する法改正の最新動向は、以下の記事で詳しく紹介しています。

カスハラ相談窓口の主な役割と機能
相談窓口は、単に「従業員の話を聞く場所」ではありません。従業員を守り、企業の健全な運営を支えるための重要な機能を担っています。
主な役割は以下の3つです。
- 従業員の精神的安全の確保
- トラブルの早期発見・エスカレーション
- 証拠の記録・管理と再発防止策の立案支援
被害に遭った従業員がいつでも相談できる場所を作っておくことは大切です。また、トラブルを早期発見することで上長や関連部署へスムーズに報告・連携ができます。
カスハラ相談窓口の設置方法
相談窓口の重要性は理解できても、「具体的にどうやって設置すればいいのか?」が、担当者にとっての悩みではないでしょうか。
結論から言うと、カスハラ相談窓口の設置方法は、大きく分けて「社内に設置する」方法と「外部機関と連携する」方法の2パターンがあります。そして、最も理想的なのは、社内に一次窓口を設置しつつ、専門的な対応が必要な場合に備えて外部機関とも連携しておくことです。
ここからは、具体的な設置方法を3つの視点で解説します。
- 相談窓口設置に必要なもの
- 外部機関への委託・連携の進め方
- 中小企業が取るべき現実的な対応策
順番にみていきましょう。
相談窓口設置に必要なもの
社内に実効性のある相談窓口を設置するには、まず「体制」「ルール」「周知」の3つの土台を固めることが欠かせません。 これらが曖昧なままでは、せっかく窓口を作っても形骸化してしまいます。
具体的には、以下の4つのポイントを準備しましょう。
担当部署と責任者の明確化 | 「どこが」「誰が」対応するのかを明確に定めて、プライバシー保護の知識がある担当者を設置する |
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相談フローの策定 | 具体的な業務の流れ(フロー)を決めておく |
全従業員への周知と利用促進 | 存在と利用方法を全従業員に繰り返し周知する |
雇用形態を問わない利用環境の整備 | 正社員だけではなく、パート、アルバイト、派遣社員など、すべての従業員が利用できるようにする |
ポイントを意識しながら、必要なものを準備します。
外部機関への委託・連携の進め方
社内窓口だけでは対応が難しい場合や、より専門的なサポートが必要な場合は、外部機関との連携が非常に有効な選択肢となります。
外部に委託・連携する最大のメリットは、「高度な専門性」と「相談の匿名性」を確保できる点です。社内の人間関係を気にして相談しづらいと感じる従業員の、心理的な受け皿にもなります。
連携先としては、以下の専門機関が考えられます。
- 弁護士(法律事務所)
- 民間のハラスメント対策コンサルティング会社
- EAP(従業員支援プログラム)提供企業
- 所属する業界団体 など
たとえば、顧問契約を結んでいる弁護士にカスハラ対応も依頼する形が考えられます。
外部委託を検討する際は、契約内容を慎重に確認することが重要です。とくに「守秘義務の範囲」「対応してくれる業務内容」「費用体系」の3点は、事前に明確にしておきましょう。
中小企業が取るべき現実的な対応策
「大企業のような専門部署も予算もない…」と感じる中小企業の担当者の方も多いのではないでしょうか。しかし、人員や予算が限られている中小企業でも、工夫次第で効果的なカスハラ対策は実現可能です。
具体的には、3つの方法があります。
- 少人数での兼任・簡易なフローから始める
- 自治体・商工会議所などの支援策を活用する
- 専門機関へのスポット相談やツールの導入を検討する
1つ目は、少人数での兼任・簡易なフローから始めることです。
信頼できる管理職などが他の業務と兼任で相談担当者となり、相談があった場合にのみ経営層と連携して対応する、などのスモールスタートでも構いません。対応フローも複雑にしすぎず、基本的な流れをシンプルに決めておくことから始めましょう。
2つ目は、自治体・商工会議所などの支援策を活用することです。
多くの自治体や商工会議所では、中小企業向けに無料の法律相談や経営相談窓口を設けています。こうした公的な支援サービスを積極的に活用することで、コストを抑えながら専門家のアドバイスを受けることができます。
3つ目は、専門機関へのスポット相談やツールの導入を検討することです。
顧問契約が難しくても、問題が発生した際に単発(スポット)で相談できる弁護士や専門家を見つけておくだけでも安心です。また、相談内容の記録・管理を効率化する低コストなクラウドツールなどを導入することも、現実的な対策のひとつです。
完璧な体制をいきなり目指すのではなく、「できることから始めること」が継続可能な第一歩となります。
カスハラ相談窓口を機能させるポイント
せっかくカスハラ相談窓口を設置しても、全く利用されなければ意味がありません。
よくある失敗例は、まさにこの「利用者がいない」状態に陥ってしまうことです。もちろん、カスハラ被害がなくて利用者がいないのであれば問題ありませんが、被害が発生しているにもかかわらず従業員が相談できずにいるケースは避けなければなりません。
そうした「作っただけ」の形骸化を避けるために、ここでは相談窓口を真に機能させるための4つの重要なポイントを紹介します。
- 相談しやすい環境づくり
- 対応フローと記録・証拠管理の体制整備
- 相談対応者への研修とサポート体制
- 社内への周知と相談文化の定着
詳しくみていきましょう。
相談しやすい環境づくり
従業員が安心して声を上げるためには、何よりもまず「相談しやすい環境」を整えることが大前提です。 相談することへの心理的なハードルを、会社側が積極的に取り除く必要があります。
なぜなら、従業員は「相談したら不利益を被るのではないか」「誰かに内容を知られたらどうしよう」などの不安を抱えているからです。この不安を解消するために、以下の点を徹底しましょう。
- 匿名相談・秘密保持の明確化
- 窓口のアクセスしやすさ
- 外部窓口などの選択肢の用意
相談者のプライバシーと意思を最大限に尊重する姿勢を示すことが、信頼される窓口への第一歩となります。
対応フローと記録・証拠管理の体制整備
次に、相談が寄せられた後に、迅速かつ公正に対応できる「信頼性の高いプロセス」を構築することが重要です。 場当たり的な対応は問題をこじらせ、従業員の会社への不信感を招く原因となってしまいます。
信頼性を担保するためには、以下の体制を整備しましょう。
- 通話録音、相談記録の保存ルール策定
- 一貫した対応フローの設計
- 情報漏えいリスクへの対策
透明で一貫性のあるルールがあってはじめて、従業員は「ここに相談すれば、きちんと対応してもらえる」と安心できます。
相談対応者への研修とサポート体制
相談窓口の品質は、対応を担当する従業員のスキルと心構えに大きく左右されます。したがって、担当者の育成と、担当者を支えるサポート体制の構築は欠かせません。
なぜなら、相談者は心に傷を負っている場合が多く、担当者の不用意な言動が二次被害につながる恐れがあるからです。また、担当者自身も大きな精神的ストレスを抱える可能性があります。
会社として、以下の取り組みをおこないましょう。
- 対応者に求められるスキルと心得の教育
- 対応者のストレスケアやフォロー体制
担当者を「育て」、そして「守る」仕組みがあってこそ、相談窓口は継続的に機能します。
社内への周知と相談文化の定着
最後の仕上げは、相談窓口の存在を全社に浸透させ、「困ったときには相談して良い」文化を根付かせることです。
「相談するのは大げさだ」「会社に迷惑をかける」などのネガティブな空気が社内にあると、従業員は声を上げることをためらってしまいます。そうした空気を払拭し、ポジティブな文化を醸成するために、継続的な働きかけをおこないましょう。
地道な働きかけによって、相談窓口が特別なものではなく、「当たり前の安心できる制度」として社内に定着します。
従業員に周知しておきたい社外のカスハラ相談窓口
社内に相談窓口を整備することは企業にとって大切ですが、従業員のなかにはさまざまな理由で、社内窓口の利用をためらう方もいるのではないでしょうか。
「パートタイマーの立場上、相談しにくい」「社内の人間関係が気になって、正直に話しづらい」などのケースも考えられます。
そうした従業員が一人で問題を抱え込んでしまわないために、企業として知っておきたい、そして全従業員に周知しておきたい公的な社外相談窓口を紹介します。
- 労働局・労働基準監督署の総合労働相談コーナー
- 厚生労働省「ハラスメント悩み相談室」
- 弁護士・法テラスなどの法的支援窓口
- 人権相談・誹謗中傷ホットライン
このような選択肢があることを伝えるだけでも、従業員の大きな安心につながります。
労働局・労働基準監督署の総合労働相談コーナー
カスハラを含め、職場で起きた労働問題に関する最初の相談先として、まず押さえておきたいのが全国に設置されている「総合労働相談コーナー」です。
ここは、あらゆる労働問題を専門の相談員が対応してくれる公的な窓口です。企業と従業員との間で解決が難しい問題が発生した際、中立的な立場から助言を受けられます。
特徴 | カスハラ以外にも、解雇、いじめ、賃金未払いなど、労働問題全般を相談できる |
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メリット | 予約不要で、匿名での相談も可能で、費用はかからない |
場所 | 各都道府県の労働局や、全国の労働基準監督署内などに設置されている |
従業員にとって、最も身近で頼りになる公的機関のひとつです。
厚生労働省「ハラスメント悩み相談室」
カスハラをはじめ、ハラスメント問題に特化した、より専門的な相談をしたい場合には、厚生労働省が委託運営する「ハラスメント悩み相談室」が有効です。
文字通り、職場のハラスメントに特化した相談窓口であり、専門知識を持つ相談員が丁寧に対応してくれます。
特徴 | カスハラはもちろん、パワハラ、セクハラ、マタハラなど、あらゆる職場のハラスメントに対応 |
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メリット | 電話やメール、オンラインでも相談できるため、場所を選ばず利用しやすいのが魅力 |
場所 | オンライン |
匿名での相談も可能で、ハラスメントに悩む従業員の心強い味方となります。
弁護士・法テラスなどの法的支援窓口
慰謝料の請求など、具体的な法的解決を視野に入れる深刻なケースでは、弁護士や法テラスなどの法的支援窓口への相談が選択肢となります。
法律の専門家から、個別の状況に応じた具体的な解決策や、法的手続きのアドバイスを受けることができます。
▼弁護士
費用が高いイメージがありますが、最近では初回相談を無料(30分〜1時間程度)でおこなっている法律事務所も多くあります。
▼法テラス
国が設立した公的な機関。収入などの条件を満たせば、同一の問題を3回まで無料で弁護士などに法律相談ができます。
法的な対応が必要になった場合に備え、こうした窓口があることを知っておくだけでも、従業員の安心材料になります。
人権相談・誹謗中傷ホットライン
カスハラ行為がエスカレートし、SNSでの誹謗中傷や人格を著しく傷つけるような書き込みにまで発展した場合は、人権問題やインターネットトラブルに特化した窓口も頼りになります。こうした問題は、通常の労働相談とは異なる専門的な対応が必要になるためです。
▼人権相談
法務省が管轄する「みんなの人権110番」など、人権侵害に関する全般的な相談を受け付けている窓口があります。
▼ネット上の誹謗中傷
プロバイダなどに削除要請などをおこなう際の相談窓口として「誹謗中傷ホットライン」があります。また、総務省のウェブサイトにはインターネット上の書き込みなどに関する相談・通報窓口のご案内がまとめられており、参考になります。
とくにインターネットが絡む複雑な事案では、こうした専門窓口の存在が大きな助けとなります。
相談窓口の設置とあわせて整備しておきたいカスハラ対策
カスハラの再発防止には、担当者個人に任せるのではなく、組織全体での情報共有が鍵となります。「カイクラ」は、顧客ごとの対応履歴を一元管理し、スムーズな情報共有を実現します。
担当者だけが情報を抱え込む「対応の属人化」は、問題の発見を遅らせ、被害を他の従業員にまで拡大させてしまう大きなリスク要因です。
「カイクラ」を使えば、いつ、誰が、どのような対応をしたか、などの情報が顧客情報に紐づいてシステム上に蓄積されます。たとえば、「特定の女性従業員を狙って高圧的な態度をとる」などの要注意顧客の情報をシステム上で共有しておけば、受電時にすぐにその情報を把握し、男性従業員が対応を引き継ぐなどの予防策も可能です。
このように、透明性の高い情報共有は属人化を防ぎ、組織全体で戦略的にカスハラを予防する体制づくりを後押しします。カイクラの詳細は、以下よりご確認ください。
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まとめ:カスハラ相談窓口の整備は企業と従業員を守る第一歩
本記事では、カスハラ相談窓口の法的な必要性から、具体的な設置・運用のポイント、そして現場での実践的な対策までを解説しました。
カスハラ相談窓口の整備は、被害に遭った従業員を保護するだけではなく、企業の社会的信頼性を高め、従業員が安心して働ける健全な組織を築くための重要な経営課題です。
法改正への対応などの「守りの対策」はもちろんのこと、従業員がいつでも安心して声を上げられる「風土づくり」、そしてカスハラを未然に防ぐための「攻めの対策」をバランス良く進めていくことが、これからの企業には求められます。
カスハラ対策をどこからやればいいかわからないとお考えの方へ向けて、カイクラではカスハラ対策に役立つ資料をご用意しています。無料でダウンロードいただけますので、ぜひ体制整備にお役立てください。
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