ボイステックというテクノロジーをご存じですか?今では当たり前のように日常に入り込んでいるので意識する機会が少ないかもしれません。
声に関するビジネスはボイストレーニングやスピーチの学校が有名ですが、それだけではありません。ボイスビジネスの種類と今後について解説します。
ボイステックについての記事はこちらをご参照ください。
声に関するビジネスについて
声に関するビジネスは珍しいものではありません。以前から歌のレッスンや喋り方など様々な形で声のトレーニングの需要はあり、スクールビジネスの定番として君臨してきました。
つまり習い事の一種としてボイスビジネスがあったのです。
しかし合成音声(機械音声・電子音声)の技術が生まれてからは、声の需要は他のデジタル技術と組み合わせることで応用範囲が広がりました。
今ではボイスコントロールが出来るガジェットは多いですし、スマホやパソコンには確実に合成音声技術が使われたプログラムがインストールされています。
自分の声を上手く活用する方法を教えるスクールビジネスの領域から、人間代わりのインタフェースとして声を活用するビジネスの領域へと、そのボリュームがシフトしているのです。
身近にある音声技術の産物としてAppleのSiri(シリ)やMicrosoftのCortana(コルタナ)、AmazonのAlexa(アレクサ)は特に有名です。
まず間違いなく世界中にあるボイストレーニングの学校よりも、合成音声サービスの市場の方が巨大だと言えるでしょう。
ボイストレーニング
声に関するビジネスとして最も一般的なもので、ボイスレッスンやボイトレとも呼ばれています。発音矯正や話し方、歌の練習まで幅広い範囲に使われるので個別の内容について学ぶには何を身に着けたいのか専門領域を指定する必要があります。
ボイストレーニングは大きく分けると活舌改善や訛り矯正など話し方に関するものと、歌唱に関する分野の2つがあります。
話し方に関するトレーニング
話し方に関するボイストレーニングはアナウンサーのように正しいイントネーションで訛りなく、明瞭に喋れるようにする発声練習と演劇や声優のような演技をともなう発声練習に分けられます。
どちらもボイストレーニングとして学ぶ事が出来ますが、芸能系のボイストレーニングは声優や俳優(女優)養成所でも教えており、何を目指すのかによってスクールが異なります。
また、あがり症や吃音の克服や話題選びを含むコミュニケーション術、相手に安心感を抱かせ信頼を得るビジネストーク術、自己啓発としてのボイストレーニングというものがあります。
大抵は入会金+月謝という形で運営されており、誰でも学べますし実際に対面でレッスンを受けるだけでなく、オンラインレッスンもあるので話し方に関するボイストレーニングのマーケットはかなり広いと言えるでしょう。
発音矯正(外国語)
話し方の一種ですが例外として外国語の発音矯正というビジネスもあります。語学の一種なので音楽スクールや通常のボイストレーニング学校では学べません。
英会話など外国語教室のメニューの一部として受講出来ますが、ただでさえ習得困難な語学を下地として、ネイティブに近づける為に発音を直すというのは相当にレベルの高いトレーニングなので個別の需要は限られています。
歌唱に関するトレーニング
もう一つのボイストレーニングは歌唱に関する分野です。カラオケで上手く歌いたいといったものから、第九のようなゴスペルを習いたい、プロの歌手としての歌唱力強化といった需要に応えるボイストレーニングです。
主に下記の技術を教えており、専門家のレッスンの有無で大きくスキルが向上します。
- チェストボイス
- ヘッドボイス
- ファルセット
- ミックスボイス
- チェストミックス
- 柔軟体操
発声方法とは別に体操がスキルとして入っているのには理由があります。良い声を出すには肺や声帯が柔軟である必要があるからです。発声方法と合わせて体全体をほぐすトレーニングを実施しているスクールは多く、プロレベルになれば必須だと言えます。
歌唱のボイストレーニングは多くのカルチャーセンターの定番で、会話のボイストレーニングよりも一般的です。
音声技術
ここからは個人のスキルとしてのビジネス領域から合成音声に関する技術全般について、その広がりを解説していきます。
音声技術とはコンピュータに喋らせる技術ですが、単にコンピュータから合成された声が発せられるだけでなく下記の技術全てが含まれます。
- 音声認識(voice recognition technology)
- 話者認識(speaker recognition technology・voice recognition technology)
- 感情認識(emotion recognition technology)
- 音声合成(speech synthesis technology)
- テキスト変換(character conversion technology)
- 自動翻訳(automatic translation technology)
例えばカーナビのハンズフリー操作ひとつを例にとっても声でカーナビに指示を出して操作するには、音声認識技術が必要ですし、右左折の指示や渋滞情報は画面の表示だけでなく機械音声が教えてくれます。
つまりカーナビだけでも音声認識と音声合成の技術が使われているのです。
またスマホで音声検索をしたり音声入力ライティングをしたりする際には、音声認識とテキスト変換の技術が使われています。これらはほぼ全てのスマホやタブレットで使える機能なので、世界中の誰もがボイスビジネスの顧客だと言っても過言ではありません。
なお上記の技術をまとめてボイステック(音声技術全般)と呼びます。詳しくは下記の記事をご覧下さい。
また個人用ガジェットだけでなく、法人向けのサービスとしてはコールセンター(サポートセンター)の自動音声応答システム(IVR:Interactive Voice Response)も音声技術の産物だと言えます。
あらかじめ録音しておいたテープを再生するだけのシステムから合成音声へと切り替わっており、今では多くの大手リテール企業のサポートセンターは第一報を自動音声で受けてから、適切な担当者に割り振ります。
自動音声応答システムは多言語対応に向いているのでインバウンド需要に期待できますし、近年はAI技術と融合し話者の感情を読み取る技術と組み合わせたサービスもあります。
コンピュータがインタラクティブに対応するシステムには人間のように認識・発話する音声技術が必須なのです。
ボイスビジネスの広がり
このように声に関するビジネス領域はかなり広く、音声技術に至っては非常に高度化しており、習い事の範疇を超えています。
特にAIスピーカーやAIアシスタントは音声認識能力が格段に向上していますし、その受け答えも日々機械学習で向上しています。
AIと音声技術はGAFAMが本気で取り組んでいるビジネス領域の一つなので、資本的にも技術的にも個人レベルでは「音声技術そのもの」の開発をするのは困難だと言わざるを得ません。
※GAFAM:ITの巨人であるGoogle・Amazon・Facebook・Apple・Microsoftのこと。
ただし個人レベルで合成音声をビジネスに活用することは可能です。
例えばボイスロイドやボーカロイドといった合成音声ソフトは大人気で、YouTubeには機械音声を活用した動画が多く投稿されています。
ライセンスさえ購入すれば商用利用も可能なのでビジネスにも活用できます。
また自分の声の周波数を変更することでボイスチェンジする(フォルマント音声合成)プログラムが無料公開されていたり、様々なサービスが存在する音声技術の裾野は広いです。
活用するという点においては個人レベルでもアイデアがあるでしょう。
また既存のシステムと組み合わせて業務効率化するという点においても、様々な活用方法があります。
特にコールセンター業務の人手不足やストレスに起因する定着率の低さなどは、音声自動応答操作装置やCTI(Computer Telephony Integration)を組み合わせることで相当に軽減できるでしょう。
こうなると純粋な声のビジネス領域から離れていきますが、応答システムは音声技術がなければ成り立たないシステムであることもまた事実です。
AIが進歩して自然な受け答えが出来るようになればなるほど、AIのアルゴリズムが人間の声を分析する能力が高まるほど、音声技術もまた需要が見込まれます。
今後、声に関するビジネス領域では、純粋なスクールよりもデジタル技術における成長が目覚ましいでしょう。そして声に関する個人技能を磨くのなら、そのスキルを何らかのシステムに組み込んでもらうことでもっともビジネスとして成功すると思われます。
ボーカロイドの大成功例、初音ミクが良い例です。サンプリングされた声の元となった声優の藤田咲さんはその権利を持たず、わずか5万円の売り切りの仕事だったとされています。
その後の大ヒットで100万円相当のギターをもらったそうですが、もし自分の声を使ったボーカロイド(初音ミク)の権利を持っていれば、相当なライセンスフィーが得られたはずです。
現時点においてAIアシスタントの人工音声は選べませんが、今後はオプションとして好みの声を選べる時が来るかもしれません。
もちろんかつて有名声優の声が吹き込まれたカーナビが販売されていたように、巨大IT企業でなくてもシステムの一部として声の需要は見込めるでしょう。
しかし声を使ったビジネスが本格化するのは人間同等の受け答えが出来るAIの開発にかかっています。頭脳さえ完成すれば、第一印象に影響の大きい感覚器官である声で差別化するようになるからです。
自分のスキルを磨くか、それとも声を使った何らかのシステムの開発者側に立つか?
声のビジネスに参加するのなら何を武器にするのか明確化しましょう。