自社の製品やサービスがどのように評価されているのか把握するのは、簡単なようで非常に難しいことです。顧客からのフィードバックを受けられないと、需要のないものを提供したり潜在的な不満を見落として売上を落としてしまう危険があります。
事業を成功させ、競合他社に差をつけるためにもVoC(Voice of Customer)を活用しましょう。
VoC(Voice of Customer)とは
VoC(Voice Of Customer)とは文字通り「顧客の声」の事です。不満や要望など全てを含む自社に対する顧客の評価を意味します。
顧客の声をリサーチして経営に役立てる活動は、以前からあらゆるビジネスで行われています。そのため特に珍しいものではありませんが、近年になって更に重要性が増しています。
その理由は下記の通りです。
- 高度情報化社会なので顧客が情報を入手しやすくなった結果、競合とシビアに比較される。
- SNSの浸透により評判が拡散されやすくなった。
- ビジネスのサイクルが早くなったので情報が古くなりやすい。
インターネット以前の時代とは異なり、あらゆる商品・サービスは比較検討されますし、評判も拡散されます。もしスペックで競合に遅れを取っていたら比較されて差を強調されるかもしれませんし、もし悪評が広がっていたら直ぐに手を打たなければ会社のイメージを悪くしてしまいます。
しかも商品サイクルが早くなったので、VoCを収集・分析したとしても数カ月前の古い情報を元に経営戦略を立てるのでは遅すぎるのです。SNSでバズったら熱が冷めないうちに次の戦略に繋げるなど情報に新鮮さが求められます。
以上の点から、これまで以上に積極的にVoCを収集・分析、活用するVoC経営が重要なのです。これは一種のデータ経営と言ってよいでしょう。
収集方法
VoCを集めるにはいくつかの方法があります。
もっとも一般的なものはアンケートです。商品やサービスを購入した顧客にアンケートを送付しておまけと引き換えに返送してもらったり、契約時にその場で書いてもらったりするもので、携帯電話ショップや自動車販売店でよく見られます。
また会社ホームページやお客様電話相談窓口に寄せられた苦情やクレーム、感謝の言葉も貴重なVoCだと言えます。
加えて報酬と引き換えに一部の顧客をグループインタビューやデプスインタビューに参加してもらい、直接詳細な聞き取りをすることで情報収集する方法もあります。
ただしアンケートや窓口、インタビューから得られるVoCは顧客に積極的に回答してもらう必要があるという点から従来の「顧客の声」に過ぎません。
そこで加えて下記のVoC収集方法があります。
- SNSのリサーチ(ウェブ)
- コンタクトセンターから収集(コールセンター・チャットセンター)
- ECサイト内のデータを収集
これら3つのVoCはアンケートや問い合わせとは違い、顧客の積極性に頼りません。
ほとんどの顧客は何か不満があってもわざわざ窓口にメールを送ったり、電話を掛けたりしないものです。よほど腹に据えかねた事があるか、どうしても感謝を伝えたいという強い意志があるから自発的にアクションを起こすのです。
アンケートにしても同様です。アンケートの設問の作成方法にはノウハウがありますが、記載するのは顧客の意思です。嫌々ながら受け取ったものの、適当にチェックを入れて、空欄に「特になし」と書いて済ませる人も多く、わざわざ伝えたいことを書き込む人の数は多くありません。
インタビューも顧客が表面上考えた事もなかったような設問まで練りこむことで、かなり深い本音を引き出せますが、1件のVoC獲得にかかる時間的・経済的コストが非常に高額です。そのため顧客全体を母数とした場合に非常に少ないVoCしか集められない欠点があります。万が一招いた顧客に何らかの属性の偏りがあったら、得られたVoCも偏ってしまいます。
しかしSNSのリサーチ、顧客やコンタクトセンターのやり取り、ECサイト(運営しているのなら)のデータ収集は顧客の自発性に頼りません。
顧客はごく自然に本音をつぶやいたり、無意識にサイト内を巡回したり、書き込んだりしているからです。企業側がわざわざ教えてくださいとお願いせず、自発的に読み取る努力をするのが従来のVoCと比べて大きな違いだと言えるでしょう。
SNS(ウェブ)リサーチ
SNSやウェブで評判をリサーチするにはテキストマイニング(text mining)を用いたツールを使います。テキストマイニングとは特定の単語を含む書き込みを抽出する技術です。
データ分析用のものは出現した単語同士の関連性や書き込みをした顧客の属性分け(プロファイリング)、書き込み時間帯の偏りなど高度な分析が可能です。
個人が手動でSNSや口コミサイトにアクセスしてリサーチ・分類することも可能ですが、データ量が膨大になるので実質的には不可能です。しかも24時間365日休みなくデータが増えていくのでツールが無くてはSNSでVoCを集められません。
また分析とは違う機能ですが、詐欺や返品、不具合など特定の単語にアラームを設定しておくことで問題が発生した際、即座にチェックできる機能を備えたツールもあります。
リサーチ用のテキストマイニングツールは複数の企業が提供しているので、求める機能を備えているかチェックして選びましょう。
コンタクトセンター運営
顧客満足(CS:Customer Satisfaction)の追求のためには顧客対応の部門がチャネルごとに分かれていては部署間の連携が取りづらく不都合です。そこで生まれたのがコンタクトセンター(Contact Center)です。従来はバラバラに運営されていた顧客対応の部署をまとめて、顧客との接点全般を一元管理する部署を指します。
コールセンターの業務を電話受付業務に限るのではなく、チャット対応や問い合わせへの返信、データの分析、関係部署への共有まで拡大したものだと言っても良いでしょう。
コールセンターのコンタクトセンター化は顧客満足の追求だけでなくVoC収集・分析にも有利です。電話問い合わせを自動的に録音して管理しやすくタグをつけて保存したり、チャットのやり取りを保存することで、現場の声が収集できます。
ただし、コンタクトセンターのVoC収集にはテキストマイニングと同様にデジタル化の支援が必要です。
コールセンターでやり取りを録音するだけの機材では不十分です。音声の弱点は中身を確認するのに時間がかかる点です。しかし自動的に録音を音声認識機能でテキスト化してタグ付けするツールを使えば、ざっと目を通すだけで重要なVoCが抽出できますし、データとして扱いやすくなります。元々テキストのやり取りで完結するチャットに関しても同様です。
ECサイト内データ
ECサイトを運営している小売り企業は多いですが、サイト内の顧客の動きを把握出来ている企業は思った以上に少数です。
どの商品がどれだけ売れたか把握するだけでは不十分です。
- 同時に売れる商品が何か調べて理由を分析する(バスケット分析)
- いつ何がどれだけ売れ続けているのかチェックする(時系列分析)
- ページ内のどこがクリックされているかチェックする
- どこを念入りに読んでいるのかチェックする
- ページの滞在時間をチェックして離脱率が高いページを改善する・・・等
ECサイトの運営の最適化のため日々の活動の中で修正すべき点は無数にあります。
季節によって商品の売れ筋は変わりますし、トレンドも変化し続けます。新製品を発売すれば新たに取得すべきデータも増えていきます。
一度修正したら終わりという事はなく、最適化・効率化は日々の作業となります。
これらはサイト内にヒートマップなどのタグを設置したり、Googleアナリティクスを設置するなどして分析します。
ECサイト内の情報を読み取る事で、顧客がどのようなものを求めているのか分かるのです。これらが顧客に聞かず、企業側が努力して読み取るVoCです。
運用方法
VoCを収集し、分析したら事業に活用しますが、もっとも重要なのは情報共有です。
顧客対応の不備であれば実店舗やカスタマーサポート(カスタマーサクセス)部門に共有し、顧客自身の消費の傾向であれば商品開発部門に共有するなど必要な情報を必要な部署に速やかに共有します。
この時、集めたVoCを分析して得られた貴重な知見が無駄になってしまったり、対処が遅れてしまう事の無いよう専門部署を設けて、状況共有や意思決定のルールを明確化しておく必要があります。
会議の回数ばかりが増えて実務に影響が出ては逆効果なので、社内情報共有ツールを導入するなどして、システム的に解決するのが望ましいでしょう。
挨拶付きのメールを各部門に送信して、開封メッセージをもらい、会議で顔を合わせて自分の部署以外の決定事項にも同席するようなシステムは非効率だと言えます。
まとめ
以上、VoCの扱いについて解説してきましたが、顧客が好きなチャネル(販売流通経路)を選んで購買活動を行う現在、商品の流通は出来てもVoCやカスタマーサクセス活動に対応した組織を構築出来ていない企業は多いです。
特に老舗の大企業ほど、従来のシステムが巨大かつ複雑なので、DX(Digital transformation)しづらい現状があります。
VoCの収集も同様で、デジタル技術がなければ顧客の反応を十分にリサーチできません。顧客の声が聞こえない企業がどれほど危ういか、実務を担当するビジネスパーソンなら誰でも想像出来るかと思います。
特に炎上を始めとしてSNSの評判があっという間にネットニュースになり、テレビのニュースや新聞に波及していくスピード感はこれまでにないものがあります。
事業の効率化や拡大だけでなく、リスクマネジメントとしてもVoC収集と分析は必須です。
まずはVoCが収集できるシステムを検討してみてはいかがでしょうか。