顧客が理不尽なクレームや言動をすることを指すカスタマーハラスメント。カスタマーハラスメントと法律の関係には2つの側面があります。
企業が従業員を守るために対応するべき法的義務と、カスタマーハラスメント行為者が問われる法的責任です。
本記事では、この2つの法律に関して、企業が押さえておきたい内容を詳しく紹介します。
カスタマーハラスメントは、直接接客する業界だけの話だけではなく、電話対応業務でも起こります。電話対応でカスタマーハラスメントがあったときにも有効なのが、自動録音機能です。
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企業が把握するべきカスタマーハラスメントに対する4つの法律
カスタマーハラスメントとは、顧客からの理不尽なクレームや言動のことです。厚生労働省では、カスタマーハラスメントを以下のように定義しています。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・能様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・能様により、労働者の就業環境が害されるもの
参考:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」7P
このカスタマーハラスメントには企業が把握しておくべき4つの法律があるので、それぞれ詳しく紹介します。
- 労働契約法5条:従業員への安全配慮義務
- 労働施策総合推進法30条の2第1項:パワハラの防止
- 令和2年厚生労働省告示第5号:企業が取り組むべき指針
- 旅館業法
なお、カスタマーハラスメントとはどのようなものか詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
労働契約法5条:従業員への安全配慮義務
企業には、従業員の安全を確保する義務があります。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
参考:労働契約法 | e-Gov 法令検索
カスタマーハラスメントを行う顧客が居た場合には、企業は従業員の安全を守るために適切な対応が必要です。
たとえば、コールセンターで働く従業員が、繰り返し同じ顧客から理不尽なクレームを受け精神的に大きな負担を感じていたとします。この場合、企業は顧客の対応をほかのスタッフに代えるというような対応が必要です。
仮に企業がカスタマーハラスメントに対する対応を怠り、従業員が精神的なストレスや健康問題を抱えた場合、従業員から損害賠償請求される恐れもあります。
法律では、カスタマーハラスメントが発生した際には、企業が迅速かつ適切に対応し、従業員を守ることが求められています。
労働施策総合推進法30条の2第1項:パワハラの防止
企業は従業員に対するパワーハラスメントを防止しなければいけません。
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
参考:労働施策総合推進法|e-Gov 法令検索
上記法律はパワーハラスメントに関するものですが、パワハラ防止対策のなかにはカスタマーハラスメントも含まれています。
同法律においては、従業員の保護を企業に義務付ける内容を盛り込むことも検討されています。具体的には、対応マニュアルの策定や従業員から相談を受ける体制の整備などです。
2025年1月には改正案を提出する見通しです。
令和2年厚生労働省告示第5号:企業が取り組むべき指針
労働施策総合推進法の改正によりパワーハラスメント防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが雇用主の義務となりました。
これを踏まえて、厚生労働省はカスタマーハラスメントにより労働者の就業環境が害されることのないように、会社が行うことが望ましい取り組みの指針を示しています。
- 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 被害者への配慮のための取組
- 他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組
参考:事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)
具体的には、従業員への教育や適切な相談窓口の設置が推奨されています。加えて、カスタマーハラスメントに対するマニュアルの作成や研修の実施も必要です。
旅館業法
旅館業法では、特定の状況においてカスタマーハラスメントを行う顧客の宿泊を拒否する権利が認められています。
第5条1項3号
宿泊しようとする者が、営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であつて他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求として厚生労働省令で定めるものを繰り返したとき。
参考:旅館業法 | e-Gov 法令検索
該当するカスタマーハラスメントの行為として代表的な例が以下の2つです。
- 顧客がほかの宿泊客に迷惑をかける大声でのクレームを繰り返す
- 宿泊施設のスタッフに対して過度なサービスを要求し、ほかの客への対応ができなくなってしまう
このような顧客に対して、宿泊施設側は宿泊を拒否することが法律で認められています。
これは宿泊施設で、ほかの顧客やスタッフの安全を守るための大切な措置で、カスタマーハラスメントを防ぐためにも有効な手段です。
カスタマーハラスメント行為者に対する法的措置
ここからは、カスタマーハラスメント行為者に対して適用される法律を紹介します。
カスタマーハラスメント行為者への法的措置は、具体的な行為に応じて適用される法律が変わります。
そこで具体的な行為に分けて法律をみていきましょう。
- 暴力をふるう
- 暴言を吐く
- 脅迫する
- 業務妨害する
- ほかの客に迷惑をかける
それぞれ解説します。
暴力をふるう
カスタマーハラスメントのなかでも、顧客が従業員に対して暴力をふるうケースは深刻です。暴力があった場合には、以下の刑法により相手が処罰される可能性があります。
傷害罪(刑法204条) | 顧客が従業員に傷害を与えた場合、傷害罪が適用される 例:顧客が従業員を殴打して怪我を負わせた |
暴行罪(刑法208条) | 従業員に対して暴力をふるったが怪我に至らなかった場合でも、暴行罪が適用される可能性がある 例:顧客が怒りに任せて従業員を押した |
従業員の安全を守るために、企業はこのような行為を見逃さず、法的手段を講じることが求められます。
暴言を吐く
顧客が従業員に対して暴言を吐くこともカスタマーハラスメントです。これらの行為は、名誉を傷つけるものであり、以下の法律が適用されます。
名誉棄損罪(刑法230条1項) | 顧客が公然と従業員の名誉を傷つける発言をした 例:他の顧客や同僚の前で「無能だ」などの誹謗中傷を行った |
侮辱罪(刑法231条) | 具体的な事実に基づかない暴言や侮蔑的な発言が行われた 例:顧客が従業員に対して「バカ」「あほ」などの侮蔑的な言葉を浴びせた |
このような暴言によるハラスメント行為は、従業員の精神的な健康を害する恐れもあるため、企業は徹底した対応が必要です。
脅迫する
顧客が従業員に対して恐怖を与える言動を行った場合もカスタマーハラスメントに該当します。以下の法律が適用される可能性があります。
脅迫罪(刑法222条) | 相手に恐怖を与えることを目的とした言動を行った 例:顧客が従業員に対して「お前を辞めさせるぞ」などと脅迫した |
強要罪(刑法223条) | 顧客が従業員に無理やり何かをさせようとした 例:顧客が従業員に「この要求を飲まないと大変なことになるぞ」と言って不当な要求を強制した |
脅迫行為は、従業員に対して見えない圧力をかけ、精神的な負担が増加する恐れがあります。従業員が安心して業務に取り組むためにも、企業の毅然とした対応が必要です。
業務妨害する
顧客が従業員の業務を妨害する行為もカスタマーハラスメントです。以下の法律が適用される可能性があります。
威力業務妨害罪(刑法234条) | 顧客が暴力や脅迫を用いて、従業員の業務を妨害した 例:店舗やオフィスに不必要に長時間居座る |
従業員の対応が不当に妨げられることで、企業全体の運営に支障をきたす場合もあります。このような状況を防ぐためにも、企業は顧客の不当な要求や行為に対して厳しい対応が必要です。
他の客に迷惑をかける
カスタマーハラスメントが他の顧客にも影響を及ぼす場合、軽犯罪法が適用されることがあります。
軽犯罪法違反(軽犯罪法1条5号) | 顧客が他の客に対して迷惑行為を行った 例:レストランで他の客に迷惑がかかるような騒音を出す |
迷惑行為は、他の顧客の快適な時間を妨げます。企業は行為に対して毅然とした対応を取らなければ、他の顧客の満足度を下げ、今後利用してもらえなくなるかもしれません。
カスタマーハラスメントへの対応は、自社の従業員を守るためだけではなく、顧客が離れてしまうことを防ぐためにも重要です。
企業がカスタマーハラスメントに関する法律で訴えられた事例
カスタマーハラスメントは、従業員だけではなく企業全体に影響を及ぼす問題です。企業が適切に対処しなかった場合、法的責任を問われる場合もあります。
そこで、カスタマーハラスメントが原因で、企業が従業員から訴えられた事例を2つ紹介します。
- 不適切な対応により賠償責任が認められた事例
- 顧客トラブルへの対応を行っていたため賠償責任が認められなかった例
損害賠償が認められたケースと認められなかったケースを、それぞれ詳しくみていきましょう。
【事例1】不適切な対応により賠償責任が認められた事例
ある小学校の教諭が保護者から繰り返し理不尽な言動を受け、精神的に追い詰められたケースです。
この状況に対し、校長は事実関係を十分に確認せず、保護者の言い分をそのまま受け入れて教諭に謝罪を求めました。この対応が適切でなかったため、最終的に教諭が訴訟を起こし、裁判所は学校側に賠償責任を認めました。
学校側としては、その場を穏便に済ますことを優先し、教論に対して謝罪を求めたことが間違いだと考えられます。どのような状況にせよ、企業(この事例では学校)はフラットな立場で事実関係を整理しなければなりません。その上で、カスタマーハラスメントだと判断できた際は、従業員を守るための適切な措置を講じる必要があります。
企業や組織がカスタマーハラスメントに対して不適切な対応を取ると、従業員が法的手段に訴えることがあり得ることを認識しておきましょう。
【事例2】顧客トラブルへの対応を行っていたため賠償責任が認められなかった例
次に紹介するのは、買い物客と小売店の従業員の間でトラブルが発生したケースです。
顧客は従業員に対して不当な要求を繰り返していました。これに対し、従業員は企業が安全確保を怠ったとして、企業を相手に損害賠償請求を行います。しかし、裁判所は企業が安全確保に必要な配慮を行っていたとして、企業側の賠償責任を否定しました。
企業が行っていた対策は以下の通りです。
- 従業員がすぐに相談できるよう、店舗にエリアマネージャーや近隣店舗などの緊急連絡先を掲示
- レジカウンターに非常事態用の緊急ボタンを設置
- 深夜の従業員の配置を必ず2名以上に設定
この事例では、企業が適切な対応を行っている場合、カスタマーハラスメントに対する法的リスクを回避できることを示しています。適切な対応とは、従業員を守るための明確なポリシーの策定と、その実施を通じて顧客とのトラブルを未然に防ぐことです。
カスタマーハラスメントの行為別企業の対応例5つ
ここからは、企業が行うべきカスタマーハラスメントへの対応を、5つの行為に分けて紹介します。
- 暴言型
- 時間拘束型
- リピート型
- SNS/インターネット上での誹謗中傷型
- セクシャルハラスメント型
なお、カスタマーハラスメントの事例を詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
【対応1】暴言型
暴言型のカスタマーハラスメントは、顧客が大声で怒鳴ったり、侮辱的な発言をしたり、従業員の人格を否定する言動を取るケースです。
たとえば、スーパーマーケットにて、従業員の接客態度が気にいらず「担当者の態度が悪い。クビにしろ」と解雇を要求した事例がありました。
参考:スーパーマーケット業界におけるカスタマーハラスメントの実態及び対応事例について
このような場合、企業はまず大声を出す行為が他の顧客に迷惑をかけていることを伝え、冷静な対応を求めます。
また、侮辱的な発言や人格否定に関しては、証拠として録音や録画を行い、必要に応じて警察への通報の準備をすることが大切です。録音や録画は後の証拠として非常に有効であり、企業のリスク管理にも役立ちます。
【対応2】時間拘束型
時間拘束型のハラスメントは、顧客が長時間にわたり従業員を拘束したり、居座り続けたりする行為です。たとえば、電話で長時間の対応を求め、業務に支障をきたすケースがあります。
拘束時間が長そうな場合、まずは対応できない理由を明確に説明し、一定時間が経過した場合には電話を切るなどの対応が必要です。企業はあらかじめ対応時間を設定し、それを超えた場合の対応をルールとして定めておくことをおすすめします。
店舗などの対面で長時間拘束された場合、警察などへの通報も検討してください。
【対応3】リピート型
リピート型のカスタマーハラスメントは、顧客が理不尽な要求を繰り返し、問い合わせやクレームを続けるケースです。何度も同じ問い合わせをしてくる顧客に対して、従業員が疲弊してしまう状況が発生します。
このようなケースでは、企業は次回以降は対応できない旨を顧客に明確に伝えます。それでも改善がみられない場合には、該当の顧客をリスト化して通話内容を録音し、必要に応じて警察などへの連絡を行いましょう。
また、カイクラのようなツールを導入すれば、誰からの受電かを電話に出る前に把握できるため、リピート型のハラスメントを事前に防ぐことが可能です。カスタマーハラスメントから従業員を守りたいとお考えの方は、以下より詳細をご確認ください。
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【対応4】SNS/インターネット上での誹謗中傷型
SNSやインターネット上での誹謗中傷型のハラスメントは、顧客が悪意のある書き込みをしたり、従業員のプライバシーを侵害する情報を投稿するケースです。
こうした場合、企業はまず投稿内容を確認し、掲載先のホームページやSNSの運営者に削除を求めます。さらに、投稿者に対して損害賠償を請求する場合には、弁護士と相談しながら情報開示請求を行う必要があります。
問題の解決が難しい場合には、弁護士や警察に相談することが大切です。
【対応5】セクシャルハラスメント型
セクシャルハラスメント型のカスタマーハラスメントは、顧客が従業員の体に触れる、待ち伏せする、デートや食事に執拗に誘うなどの行為です。
行為が発生した場合、企業はまず証拠を確保するために録音や録画を行い、事実確認を行った上で加害者に警告します。それでも改善されない場合は、警察や弁護士に相談しましょう。
カスタマーハラスメントへの対応には、録音や録画が重要な証拠となります。暴言や長時間の拘束は、顧客が「言っていない」「やっていない」と主張し、話し合いが進まないケースがあるためです。
とくに電話でのカスタマーハラスメントは1対1でのやり取りのため、第三者が介入できません。そのため、すべての電話を録音しておくことが、カスタマーハラスメントへの対策として効果的です。
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カスタマーハラスメントの対策をより詳しく対策を知りたい方は、下記の記事をご覧ください。
カスタマーハラスメントの法律に対応するなら「カイクラ」がおすすめ
カスタマーハラスメントが発生した場合、企業はまず従業員を守ることが最優先です。とくに電話対応でのハラスメントは、周囲が内容を把握しづらいため、「言った言わない」のトラブルに発展しやすいという特性があります。
そこで、企業が問題に対処するために役立つ「カイクラ」を紹介します。おすすめする理由は、以下のとおりです。
- 通話内容が自動録音されるから証拠としても活用できる
- 通話内容が録音されていることをアナウンスすれば抑止力になる
- 電話に出る前に誰からの電話かわかるので従業員の負担を減らせる
それぞれ詳しく解説します。
【理由1】通話内容が自動録音されるから証拠としても活用できる
カスタマーハラスメントが発生した際、通話内容が自動で録音されていれば、後から複数人で内容を確認し、事実関係を正確に把握することが可能です。
録音された内容は、警察や弁護士に相談する際にも証拠として活用できるため、法的な対応を強化する上で非常に有効です。
これにより、従業員がハラスメントにさらされた場合でも、企業は迅速かつ適切に対応できます。
【理由2】通話内容が録音されていることをアナウンスすれば抑止力になる
カスタマーハラスメントを未然に防ぐためには、予防策が大切です。
カイクラでは、通話開始時に録音されていることをアナウンスする機能があります。これにより、顧客は通話内容が記録されていることを意識し、ハラスメント行為を控える可能性が高くなります。
実際にハラスメントが発生する前に、その抑止効果を発揮できるため、従業員を守る予防策として効果的です。
【理由3】電話に出る前に誰からの電話かわかるので従業員の負担を減らせる
カスタマーハラスメントには、特定の従業員がターゲットにされるケースもあります。たとえば、リピート型やセクシャルハラスメント型のハラスメントです。
カイクラを導入することで、受電時に誰からの電話かを確認できるため、ターゲットとされている従業員以外が電話に出られます。従業員のストレスを減らし、安心できる労働環境をつくることが可能です。
また、下記画像のように顧客の属性が一目でわかるようタグ付けできるため、過去にハラスメントがあった顧客かどうかを受電時に把握できます。
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まとめ:企業は法律でカスタマーハラスメントから従業員を守る義務がある
企業には、カスタマーハラスメントから従業員を守る法的義務があります。これは、従業員が安心して働ける環境を提供するために欠かせません。
カスタマーハラスメントは、暴言や脅迫など、さまざまな形で行われることがあり、企業が適切に対応しない場合、従業員の精神的・身体的な健康に影響を及ぼす可能性があります。
さらに、カスタマーハラスメント行為を行った人物は、その内容に応じて法律に基づいて処罰されます。企業はカスタマーハラスメントに対して毅然とした態度で臨み、必要に応じて警察や弁護士と連携して適切な対応を取るようにしましょう。
とくに電話対応においては、「言った言わない」のトラブルが発生しやすく、録音がなければ客観的な事実に基づいて話を進めることが難しくなります。カスタマーハラスメントに対する証拠として録音は有効です。
カイクラの自動録音機能を利用すれば、録音忘れの心配がなく、ハラスメントを受けた内容を上司と共有できるため、問題の早期解決に役立ちます。
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