カスタマーサクセスの重要性が認知されつつある昨今ですが、どうやったら達成できるのかという問題の前に顧客の成功とは何か?という点に立ち返り、一度整理してみましょう。デジタルトランスフォーメーションの導入と合わせて解説します。
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセス(CS:Customer Success)とは直訳のとおり顧客の成功を意味するコンセプトです。顧客の成功体験をサポートすることで問題を解決し、顧客ロイヤリティを向上させてサービスの継続利用、クロスセル・アップセルへ繋げることを目的として追求します。
これだけだと今まで追求してきたCSやCXとの違いが分かりづらいかと思いますので、類似のコンセプトとしてカスタマーサポート(CS:Customer Support)やカスタマージャーニー(customer journey)、顧客体験(CX:Customer Experience)について改めて把握して違いを確認しておきましょう。
類似のコンセプトについて
カスタマーサポート(CS:Customer Support)はカスタマーサクセスと同じCSの略語で使われるので混同しやすいですが明確に違います。カスタマーサポートは顧客の問題解決の補助を意味しますが、あくまでも問題が発生した時に解決する業務に留まるからです。
購入した商品が破損していた、データがダウンロードできないといった問題が起きた際、顧客からの連絡を受けて素早くトラブルを解消し原状復帰するのです。
問題が発生するまでは会社から顧客に何らかの働きかけをしないのであくまでも受け身ですし、トラブルといういわばマイナスをゼロに戻す活動だと言えます。主に従来型のコールセンターのカスタマーサポート業務が該当します。通販のお客様窓口が最も近いイメージです。
次の顧客体験(CX:Customer Experience)はカスタマーエクスペリエンスとも呼ばれ、顧客が購買行動をする際の体験そのものを意味します。顧客体験を最大化することで顧客ロイヤリティの向上が期待でき、サービスの継続利用など様々なメリットが生じます。
上記の説明だとカスタマーサクセスと極めて似ていますが、顧客体験は企業のマーケティング手法では無くて、その結果として「顧客側が感じるもの」です。
顧客体験を最大化するためにどんな施策を打つか、というのが企業のマーケティングとなります。
最後のカスタマージャーニー(customer journey)とは、旅路という単語が表すように顧客がどんな経緯で購入や契約に至ったか、という成約までのプロセス(経緯)やルート(経路)を意味します。
例えば、ネットの月額課金動画配信サービスに登録する際、最初にTwitterでサービスの広告を目にしてから、自分が好きな作品が配信されている事を雑誌などで知り、検索エンジンやSNSで口コミを検索してからどこかの個人ブログのリンクから登録した、というものです。
動画配信サービスだけでなくECだったら、ある商品を購入するまで複数の商品をチェックして最終的に選んだのがコレ、といった具合です。
契約に至るプロセス(経緯)をカスタマージャーニーマップとして図にして把握することで、その時々の顧客体験をリサーチし、阻害条件の把握など改善に繋げます。
例えば最後のショッピングカートに入れた後で何度もバックするなど躊躇していたら支払方法のフローに問題があるのではないか、とかページが全くスクロールされないまま極めて短い滞在時間でバックされてしまったという事が分かれば、ファーストビューの内容に不備がある事が分かるので改善方法も見えてくるというものです。
以上がカスタマーサポート、カスタマーエクスペリエンス、カスタマージャーニーの特徴となります。
これらを踏まえた上でカスタマーサクセスが何故登場したのか、という点について解説します。
カスタマーサクセスの登場
カスタマーサクセスというコンセプトが登場したのは、企業間の接客合戦の結果だと言っても過言ではありません。
問題がある時だけ対応する企業よりも、積極的に顧客が望む事を助けてあげる企業の方が魅力的ですし、顧客情報を蓄積することで顧客ごとにカスタマイズした接客ができれば、その場限りの接客をする企業と比べて競争に勝ちやすくなります。
顧客の成功をサポートするのは商品・サービスを利用した時の顧客体験の最大化を目的としており、蓄積した顧客情報を活用するのはそのいち手段です。
単に求められることを如才なくこなすだけでは不十分で、押しつけがましくならない程度に顧客をサポートすることで、顧客のブランドロイヤリティを向上させるのです。
その結果、サブスクリプションのチャーン防止に繋がったり、更なるクロスセルやアップセルのチャンスが生まれ、顧客一人当たりのLTV(Life Time Value)が増大します。
LTVとは顧客生涯価値と訳され、ある会社に対してひとりの顧客がどれだけ価値を持つか、どれだけ利益を上げられるかを意味しています。
企業と個人の関係が継続的になればLTVが向上するのはごく当たり前の流れだと言えるでしょう。
この点から、サブスクリプションのチャーン防止施策がカスタマーサクセスである、という向きもあるようですが、やや限定的すぎる説明かと思います。
顧客ロイヤリティが高まった結果、サブスクリプションのチャーン防止に繋がっているので間違ってはいませんが、これまで経緯を含めて解説してきたようにカスタマーサクセスという施策がまったく独立した新しいコンセプトとして存在するわけではありません。
以前から追及されてきた様々なコンセプトを踏まえた上で最大限のサービスをする、というのがカスタマーサクセス活動なのです。
デジタルトランスフォーメーションとカスタマーサクセスの関係
デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation )はDXの略称で知られるようになりました。
本来はスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱したコンセプトで、下記の論文にもあるように情報技術が人々の生活を良い方向に変えるというものです。
Eric Stolterman, Anna Croon Fors. “Information Technology and The Good Life”. Umeo University.
デジタルトランスフォーメーションは非常に多義的ですが、マーケティングの分野においては企業がデジタル技術を活用して既存の事業を改善したり、新事業を創出することだと認識されています。
これは非常に重要なコンセプトなので、経済産業省がガイドラインを作成しているくらいです。
何を目的としてどうやって取り組んだらよいのか、何が実現の問題となっているのか明確に記載されているので一読の価値はあるかと思います。
デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)を取りまとめました|経済産業省
カスタマーサクセスの達成におけるデジタルトランスフォーメーションとは、顧客体験の最大化にデジタル技術のサポートを得ることを意味します。
接客合戦にはきりがありません。新製品・新サービスは次々とリリースされるので最適化のゴールは常に動いていますし、顧客の消費傾向も日々変化しています。
つまりカスタマーサクセスは日々行うべき業務ということです。
そのためには担当者のカンではなく、日々データを蓄積し関係部署と共有する必要がありますが、人力では対処しきれないので各種デジタル技術の支援が欠かせません。
オペレータに顧客情報を共有するCTI(Computer Telephony Integration)やIVR(Interactive Voice Response)だけでなく、チャットシステム、チャットボット、各種VOC(Voice Of Customer)の収集用のCRM(顧客関係管理:Customer Relationship Management)システムなど様々なデジタル技術が必要です。
更には蓄積したデータを分析しなくてはいけないので、これも人力では難しい状況です。録音データをテキスト化してテキストマイニングにかけたりバスケット分析をするなど、処理すべきデータが多岐に及ぶほど分析にもシステムの支援が重要になります。
これらのシステムを1から組むのか、それとも既存のシステムからアップデートするのか、自社の置かれた状況によってとるべき施策は変わってきます。
ただ、経済産業省のガイドラインに明記してあるように、
デジタルトランスフォーメーションを取り組むのは競争に勝ち抜くために必要であるが、既存の IT システムが老朽化・複雑化・ブラックボックス化する中では、データを十分に活用しきれず、新しいデジタル技術を導入したとしても、データの利活用・連携が限定的であるため、その効果も限定的となってしまう
とか、
既存の IT システムがビジネスプロセスに密結合していることが多いため、既存の IT システムの問題を解消しようとすると、ビジネスプロセスそのものの刷新が必要となり、これに対する現場サイドの抵抗が大きい
といった問題が指摘されています。
デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドラインVer. 1.0|経済産業省
この2点の問題は既に成功している企業ほど当てはまるでしょう。
GAFAのような巨人だけでなくZOZOやUNIQLOなど、日本国内の企業でも激化する競争に勝つべくデジタル化の支援を受けたカスタマーサクセスの追及は進んでいます。
最近はデジタルトランスフォーメーションがブームだから、乗り遅れないようAIで何とかやってくれ、といった曖昧な指示では対応出来ません。
自社ビジネスのカスタマーサクセスをどこまで追及するのか、それには何が必要なのか、どうやったらスムーズに移行できるのか?
デジタル技術を活用するのなら何が出来るのかリサーチすると共に、既存のシステムの見直しを行いましょう。